癒される Mel Torme 『Swings Shubert Alley』
この2〜3日、大きい余震が多発している。震度6弱〜5弱の余震だと、我が千葉県北西部地方でも震度4〜3は揺れる。揺れによっては、体感震度は5程度になる。この大きい余震が、大震災以来、頻発している。この1週間程度、かなり余震は減少していたので、ちょっと安堵していた。それが、である。
これって、結構なストレスになる。まだ、僕たちは千葉県北西部地方なので、震源に近い東北地方や茨城県に比べれば揺れは小さい。逆に、震源に近い東北地方や茨城県では相当な揺れになっているはずで、ところによっては、3月11日の大震災と同程度の揺れという言葉も出ている。その恐怖感はいかばかりか、と思う。
それでも、ストレスを感じ続けているとロクなことはない。大きく深呼吸を2〜3回すると良いという。そして、僕は大好きなジャズを聴く。こういう自然の驚異からのストレスを感じている時は、ジャズ・ボーカルを聴く。それも、見事なジャズ・ボーカルを、だ。
今日は、Mel Torme(メル・トーメ)の『Swings Shubert Alley』(写真左)を聴く。メル・トーメは、僕のお気に入りの男性ボーカリスト。男性ジャズ・ボーカリストとしては、一に「フランク・シナトラ」、二に「メル・トーメ」、三に「チェット・ベイカー」である。『Swings Shubert Alley』は、お気に入りの2番目、メル・トーメの名盤である。
メル・トーメは、ジャズ・ボーカリストとしては傑出した存在で、ジャズとしてのスイング感は抜群、臨機応変なリズム感は天性のもの、そして軽妙洒脱な語り口は見事の一言に尽きる。とにかく、聴いていて、とても「和む」ボーカルなのだ。決して角が立たない、優しい丸みを帯びた、それでいて、芯のしっかり入ったボーカル。聴いていて、ポジティブに「癒される」こと請け合いである。
加えて、このアルバム、バック・バンドに、アート・ペッパーをはじめとするウエスト・コースト勢がズラリと控え、アレンジは、西海岸アレンジャーの雄、マーティ・ペイチが担当する。米国西海岸ジャズの特徴である、良く計算された洒脱なユニゾン&ハーモニー、かつ耳当たりの良く端正、そして、決して平凡ではない、アーティスティックなアレンジが満載である。フレンチ・ホルンやチューバが入っているところが、なかなか耳に新しく感じる。実に豊かに、ふくよかに感じる、音の重ね方が素晴らしい。
そんな米国西海岸ジャズ独特な雰囲気をバックに、メル・トーメの、和む、かつ癒される、柔らかくポジティブな、芯の入ったボーカルが楽しい。どの曲もどの曲も素晴らしい歌唱で魅了してくれます。アルバム・タイトルの「Shubert Alley」というのはブロードウェイの別名、つまりブロードウェイ・ミュージカルのヒット曲集という訳。アルバム・タイトルも洒落てます。ジャケット・デザインもなかなか優秀。タイトル良し、ジャケット良し、内容良し、揃いも揃った「三拍子」です(笑)。
バック・バンドの演奏は実に優れたものですが、特に、アート・ペッパーが、魅力的なアルト・サックスを披露しています。長くは無いんですが、適度に短く、端的に、切れ味の良いアルト・ソロを聴かせてくれます。バック・バンドとのアンサンブルも良好。バックのユニゾン&ハーモニーに乗って、アートのアルトは、太くブリリアントで流麗。それぞれのソロは短いんですが、実に印象に残るアルトを聴かせてくれます。唄うようなソロとはこのこと。
どの曲も素晴らしく、全ての歌唱に耳を傾けて頂きたいと思います。それでも何曲かを選べと言われたらですね〜、
4曲目の「On The Street Where You Live」
7曲目の「Hello Young Lovers」
8曲目の「The Surrey With Fringe On Top」
9曲目の「Old Devil Moon」
辺りでしょうか。特に、7〜9曲目の3連発は、いつ聴いても惚れ惚れします。ジャジーな歌声、メル・トーメの傑作でしょう。加えて、このアルバム、音が良い。ブロードウェイ・ミュージカルのヒット曲集、当然、曲が良い。そして、メル・トーメのボーカルが良い。 「和む」ボーカルに、ポジティブに「癒される」。良いボーカル・アルバムです。
ちなみに、アート・ペッパーを含むペイチ楽団と共演したトーメの名盤2枚、今回ご紹介した『Swings Shubert Alley』と、コーラス・グループ「メル・トーンズ」を従えた『Back In Town』をカップリングした『THE ART PEPPER-MARTY PAICH SESSIONS』(写真右)もあります。ダウンロード・サイトでは、このカップリング盤がアップされていることが多い様です。
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