伝説「熱狂の田園コロシアム」
「V.S.O.P.」=「Very Special Onetime Performance」の略。ニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演の折、ハービー・ハンコックがマイルスの黄金クインテットを再現することで、マイルスのカムバックを促す予定が、直前で肝心のマイルスがドタキャン。仕方なく、フレディ・ハバードを迎えて結成したこのV.S.O.P.クインテット。本来一1回きりの結成のはずが、予想外の好評に継続して活動することになる。
このV.S.O.P.クインテット、日本にも2回来日している。最初の来日が1977年。その来日時のライブ演奏を捉えた秀逸なライブ盤がある。そのライブ盤の名は『Tempest in the Colosseum』(写真左)。邦題は『熱狂のコロシアム』。1977年7月23日、東京の田園コロシアムでのライブ録音。
ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock(p), Wayne Shorter(ts,ss), Freddie Hubbard (tp), Ron Carter (b)、 Tony Williams (ds)。USAツアーの後の日本公演だけに、メンバーそれぞれの演奏もこなれて、十分なリハーサルを積んだ状態になっており、この日本公演のライブ録音の内容は秀逸である。
1960年代中盤、モード・ジャズを基調とした、何とか伝統的なフォーマットに留まってはいるが、限りなくフリーな演奏を繰り広げていたマイルスの「黄金のクインテット」。その「黄金のクインテット」時代の演奏を踏襲しながらも、1970年代後半ならではの、先進的かつ最先端なハード・バップな演奏を聴かせてくれる。
モーダルな演奏が実にクール。1977年代当時、これほどまでに「前衛的ハード・バップ」をやりまくったバンドは無いだろう。さすがは、もとマイルスの「黄金のクインテット」に参加していた4人+{4人のお気に入りトランペット}という、伝説のクインテットならではである。
収録曲を見て欲しい。どの曲もが、何とか伝統的なフォーマットに留まってはいるが、限りなくフリーな演奏を繰り広げていた「前衛的ハード・バップ」な時代の代表曲がズラリと並ぶ。
1. Eye of the Hurricane
2. Diana
3. Eighty-One
4. Maiden Voyage
5. Lawra
6. Red Clay
しかし、この「V.S.O.P.」五重奏団が、決して、ノスタルジックに「昔の名前で出ています」風に、1960年代中盤〜後半のトレンドを踏襲した「懐メロ」な演奏になっていないところが、まず「凄い」。この演奏メンバー5人の矜持を感じる。新しい響きがそこかしこに見え隠れし、当時、この5人のメンバーは、純ジャズメンとして、鍛錬怠りなく、確実に進歩していたことを物語るものだ。
収録されたどの曲も内容のある良い演奏だが、特にラストのハバード作「Red Clay」が格好良い。ジャズ・ロック風のテーマに対して、インプロビゼーション部になると、メンバー全員が「モード奏法」で襲いかかる。凄い迫力、凄いテンション、そして、印象あるフレーズの連発。
このライブ盤、発売当時は「内容はあるが、やや冗長な面があるのが残念」という評価が多かった。この「五つ星」ではありません的な評論は、当時まだまだ、ジャズ初心者駆け出しの僕を大いに迷わせた。当時は、資金面で、まだまだ問題があり、迷ったら買わない、という不文律が僕の胸の内にあった。当選、この『Tempest in the Colosseum』は手に入れる事は無かった。
しかし、聴かず嫌いはいけない。そろそろCDで手に入れようと思い立ち、暫く廃盤状態が続いていたみたいだが、首尾良く「Hybrid SACD」仕様が発売されていたので、高音質期待ということで購入に踏み切った。で、聴いてみると、これがなかなかの内容じゃないですか。冗長な所がある、っていうけど、どこが冗長なの?
確かに、部分部分のトニー・ウィリアムスの長尺のドラムソロがある。ロン・カーターのブヨンブヨンな長尺ベースソロもある。この辺が「やや冗長な面があるのが残念」だと、自分としては結論づけている。
確かに、トニーのドラムソロは長い。でも単純なドラムソロでは無い。どんなタイム感覚をしているんやと思ってしまう、多彩なポリリズム。ロンのベースソロだって、電子増幅で生ベースの音はブヨンブヨンとしているが、そのインプロビゼーションにおけるアプローチは、決して他のベーシストの追従を容易にさせない、高度なもの。
ハービー率いるV.S.O.P.の「Tempest In TheColosseum」。邦題「熱狂の田園コロシアム」は、大震災直前に入手したもので、地震でケースが粉々になった曰く付き。CD本体は奇跡的に無傷だったが、なんとなく聴く気が起きず放置していた。しかし、今日「復活」である。
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