硬派なジャズの最右翼
ジャズにもいろいろある。心地良い柔らかさの演奏もあれば、突き刺さるような激しい演奏もある。ジャズはクラシックと比べて、音の強弱、音の硬軟の差が激しい。つまりは、メリハリが付いていて、このメリハリの付け具合こそが、ジャズの個性のひとつであったりする。
演奏する音の硬さ、という面では、チャールス・ミンガスが最右翼だろう。怒れるベーシストとして有名なチャールズ・ミンガスだが、その演奏の硬さときたら、音の端々から「パキパキ、ポキポキ」と音がしそうなくらい。本人のベースの音からして、ブンブン、ビンビンと、超硬質な重低音を響き渡らせている。
そのベースの超弩級の超硬質な重低音に乗って、ドラムが呼応し、ピアノが乱舞し、サックスが鳴り響くのだ。当然のこと、それぞれの楽器の音は、自然と硬質になる。
そんなチャールズ・ミンガスの影響で、「超硬質な演奏」になったセッションを記録した一枚が『East Coasting』(写真左)。1957年8月のセッション。オハイオ州シンシナティで録音されている。ちなみにパーソネルは、Clarence Shaw (tp) Jimmy Knepper (tb) Curtis Porter (as, ts) Bill Evans (p) Charles Mingus (b) Dannie Richmond (ds)。
やっぱり、ドラムはダニー・リッチモンドなんやね。ミンガスの超弩級の超硬質な重低音ベースを気にすることなく、自分のドラムを叩き続けることができる貴重な存在。頼もしきリッチモンドである。そして、他のメンバーを見渡すとだな・・・、う〜ん知らん名前ばかりが並ぶ。でも、なんと、ピアノにビル・エバンスの名がある。このビル・エバンスって、そうあのビル・エバンスです。現代ピアノ・トリオの祖。
エバンスのピアノは、ダイナミックかつ耽美的。結構バリバリとメリハリ付けて弾くタイプだが、そのピアノの音は適度に心地良く丸い。が、この『East Coasting』のセッションでは、チャールズ・ミンガスの超弩級の超硬質な重低音ベースの影響と、リーダーのミンガスの演奏方針に従って、パキパキのピアノを弾き倒している。
演奏全体が、完全に硬派なジャズになっている。リーダーであるミンガスのリーダーシップの力量いかばかりなるか、という感じ。ミンガスの薫陶よろしく、メンバー全員が一心不乱に「硬派なジャズ」を演奏している。どの演奏もどの曲も「パキパキ、ポキポキ」と音がしそうな演奏である。
それでも、しっかりと演奏のツボは心得ているようで、ロマンティックな曲には、硬派な音の合間に、そこはかとなく優しさが漂うし、ハードボイルドな曲には、そこはかとなくクールなテンションが張り詰める。
冒頭の「Memories Of You」は、その最たる演奏。この曲、もともとロマンティックなバラードなんだが、ミンガスのリーダーシップの下では、「パキパキ、ポキポキ」と音がしそうな硬派なバラードに早変わり。ペットのミュートは切れ味鋭く、実に硬派な響きで、ロマンチックなテーマを吹き上げ、ピアノのエバンスも自らのスタイルを封印し、精一杯「パキパキ、ポキポキ」と音がしそうな硬派なピアノを、結構、滑らかに弾き綴っていきます。
意外とエバンスの柔軟性というか、良い意味での「いい加減さ」を強く感じます。まあ、プロってそういうもんでしょうね。自らの主張、スタイルを貫き通すだけが全てでは無い。時には周りに合わせる懐の深さもプロならではの「なせる技」でしょう。
硬派なジャズの最右翼は「チャールズ・ミンガス」のリーダー作。ミンガスの硬派なリーダーシップは、演奏するグループの人数が少なくなればなるほど、その「硬度」が増すようです。つまりは、ミンガスのリーダー作は、スモール・バンドからビッグ・バンドのサイズがちょうど良い、演奏の「硬度」となる、ってことですかな。ふふっ、お後がよろしいようで・・・。しかし、本当に適当なジャケット・デザインやなあ(笑)。
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