ハービーの「ニューポートの追想」 『V.S.O.P.』
ハービー・ハンコックの聴き直しをしていて、V.S.O.P.クインテットの諸作を忘れていた。そう言えば、ハービーを主役に、V.S.O.P.クインテットの諸作を語ったことが無い。
で、今回は、Herbie Hancockの『V.S.O.P.』(写真左)である。現代は「V.S.O.P.」で、なんともはや、インパクトの無いタイトルである。「V.S.O.P.」は、Very Special Onetime Performance の頭文字を取った略号と判って、それでも「それがなにか」ってタイトルなんだが、実は邦題がふるっていて、その邦題は「ニューポートの追想」。さすが、邦題の第一人者、CBSソニーの面目躍如である(笑)。
1976年、NYでの「ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル」での実況録音盤。6月29日に執り行われた特別企画のステージ「Retrospective of the Music of Herbie Hancock」。ハービーの音楽経歴を回顧するというもの。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Wayne Shorter (ss,ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。ペットのハバードをマイルスに置き換えたら、1960年代、黄金のクインテットのパーソネルである。
当時、ハービーは36歳。音楽経歴を回顧するには若すぎるとは思うんだが、まあ、それはそれで不問に付すということで・・・(笑)。
僕は、このニューポートの特別企画を、当時のFM専門雑誌「FMレコパル」の「レコパル・ライブ・コミック」のハービー・ハンコックの特集で知った。漫画を担当したのは「石ノ森章太郎」。これは今でもはっきりと覚えている。このコミックの印象が強く残っていて、大学生になって、ジャズ者初心者ホヤホヤの頃、早々に、この『V.S.O.P. 〜 ニューポートの追想 〜 』を手に入れた。当時、LP2枚組だったが、バイト代を注ぎ込んで、思いっきり「ゲット」である(笑)。
冒頭の「Piano Introduction」を聴くと今の耳で聴くと意外と面白い。エレピ(おそらくフェンダー/ローズだと思うんだが)をアコピの様に弾くのは、ハービーだけかもしれない。
マイルス御大はそんなハービーを評価しなかった。エレピを、エレピの特性を見抜いて、エレピならではの音色とインプロビゼーションを表現してみせる。これが、マイルス御大の薫陶だったのだが、ハービーはそれが実現できなかった。逆に、チックとキースはそれが出来た。
冒頭の「Piano Introduction」に続くのが、ハービーの大名曲「Maiden Voyage(処女航海)」。これがまあ絶品である。マイルスの黄金のクインテット、マイルスをハバードに代える、であるが、それぞれが入魂のインプロビゼーションを繰り広げてみせる。
どの演奏も、インプロビゼーションの基調は「モード」。「Maiden Voyage」も「Nefertiti」も「Eye of the Hurricane」も「Toys」も、どれもが、モード・ジャズのお手本とも言うべき、自由度の高い、ほどんどフリー、それでいてモード、という、伝統のジャズ演奏の範囲内で、最大限の自由なインプロビゼーションを展開する。それはそれは、凄い演奏がギッシリである。
当時は「アコースティックな純ジャズ」の回帰と解釈、評価され、このライブ盤は好意的な評価をもって受け入れられたが、そんな後ろ向きな、そんな保守的な内容では無い。これって、1970年代、純ジャズ演奏の最先端の更に先を行く、1980年代以降の「ハードバップ復興」を予言した内容である。マイルス・スクールの優等生達が、マイルスの代わりにトレンド・セットした、内容優れたライブ盤である。
LP2枚目の、当時のヘッドハンターズ(以後)なメンバーを入れ替えてのブラック・ファンクなフュージョン演奏も特筆すべき演奏である。「Hang Up Your Hang Ups」そして「Spider」のワー・ワー・ワトソンとレイ・パーカーJr.の左右からのギター攻撃には、とことん「やられる」(笑)。うんうん、やられるんだよ、そう「やられる」(笑)。
これだけ、スマートで小粋だけれど、ドップリ「ファンキーな」エレクトリック・ハービーは、そうそう聴かれるものでは無い。このLP2枚目のエレクトリック・ハービーな演奏だけでも、このライブ盤は「買い」である。やはり、エレ・ハービーな「エレ・ファンク」は素晴らしい。
LP2枚組のボリュームでも、ちょっと聴き足りない感が残るライブ盤ですが、それはそれは良い内容です。ハービー・ハンコックというキーボーティストを理解するには「うってつけ」のライブ盤です。とにかく、キーボーティストとより、コンポーザー&アレンジャーとしてのハービーの才が冴えるライブ盤と言えるでしょう。
当時、この「ニューポートの追想」のアコースティック・ハービー、「マイルスの黄金のクインテット、マイルスをハバードに代える」が、かなりの評判を呼んで、「Very Special Onetime Performance」で終わらずに、ワールド・ツアーをかけることになる「V.S.O.P.」。確かに、その当時の勢いが、このライブ盤のパフォーマンスを聴いて、とても良く判ります。
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コメント
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こんにちは。(コメント書くの15年ぶりくらいかもしれません。)
ハービーが Piano Introduction で弾いているのは、YAMAHA CP80 というエレクトリック・ピアノです。日本では八神純子やサザンオールスターズが使用していた楽器です。
投稿: Ken | 2013年12月31日 (火曜日) 00時50分