ピアノ・トリオの代表的名盤・20
ピアニスト、ケニー・ドリュー。1928年ニューヨーク生まれ。スウィング感は抜群だが、今いち個性がつかみづらい、パウエル派のバップ・ピアニストだった。しかし、1970年に人種差別問題に嫌気が差し、突如、欧州移住を決意する。
1961年に渡仏、1964年にデンマークのコペンハーゲンを活動の拠点とし、盟友のベーシスト、ニールス・ペデルセン( Niels-Henning Orsted Pedersen)と出会っている。恐らく、ジャズを芸術として愛してくれる欧州の聴衆とこのペデルセンとの出会いが、ドリューの心の中の「何か」を変えたのだろう。まるで、ニューヨーク時代の苦しさから、解き放たれたかのように、端正なタッチ、明快で判り易いフレーズ。ポジティヴで典雅な演奏になっている。
もともと、幼少の頃から、クラシック・ピアノに秀でていて、8歳の時にはリサイタルを開いていたほどの腕前だったらしい。タッチは明快で端正。その明快で端正なタッチに、ほのかに漂うファンクネス。それでいて、絶対に俗っぽくならない。コペンハーゲンという北欧の環境とクラシックの発祥である欧州の雰囲気が、ドリューのクラシックの素養を引き出してくるんだろう。北欧とニールス・ペデルセンの出会い。これが、ドリューのピアノが、ニューヨーク時代と比べて、がらっと変わった理由だろう。
そんな欧州移住後、北欧の地、コペンハーゲンで録音したピアノ・トリオがある。『Dark Beauty』(写真左)。1974年5月21日の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Drew (p) Niels-Henning Orsted Pedersen (b) Albert Heath (ds)。
ドリューのタッチは、ポジティヴで典雅ではあるが、決して優しくは無い。もともと、パウエル派のピアニストである。強いタッチと荒々しい展開が基本である。そんなドリューのピアノに、ゴリゴリとして力強くぶっとい、ペデルセンのベースが絡む。そして、アルバート・ヒースの垂直に斬り込むような、縦ノリのドラミングが絡んで、すごく躍動感、疾走感のあるダイナミックでメリハリのあるピアノ・トリオが展開される。これ、もはや快感の域である。
冒頭の「Run Away」が凄い。ドッドドドー、とペデルセンの重戦車の様なベースが鳴り響くと、トットトトーとポジティヴで典雅なドリューのピアノが応える。絶妙のコール・アンド・レスポンス。そして、いくぞー、とばかりに、ヒースの縦ノリのドラミングがドドドドドッと参戦する。それからは、3者が一体となった、躍動感、疾走感のあるダイナミックなピアノ・トリオがぶわーっと展開される。
ガラッと雰囲気が変わって、次のスローバラードな演奏「Dark Beauty」続く「Summer Nights」も良い。荒々しく強いタッチを封印して、端正なタッチ、明快で判り易いフレーズ、典雅なスローバラードな演奏が展開されていく。ヨーロピアンなクラシカルな響きが、これまた魅力的なドリューのピアノである。しかし、この演奏にロマンティシズムは無い。演奏の奥底に、黒いファンクネスが漂っている。ドリューのピアノの強烈な個性である。
そして、4曲目、再び、躍動感、疾走感のあるダイナミックなピアノ・トリオに戻った「All Blues」は圧巻。もう圧倒されるトリオ演奏。凄い音圧。ダイナミックな演奏とはこのこと。速いテンポの演奏になると、パウエル派ピアニストの面目躍如。強いタッチと荒々しい展開で、ドドドドドッと突入していく。ペデルセンのベースはブンブン唸り、ヒースのドラムは、トタトタ・トスントスンと縦に揺れる。
とまあ、ラストのCDのボーナストラック「A Stranger In Paradise」まで、すごく躍動感、疾走感のあるダイナミックでメリハリのあるピアノ・トリオが展開される。聴き応え十分。ジャズ者初心者の方々にお勧め。
特に、1曲目の「Run Away」の前奏のコール・アンド・レスポンスを聴いて「格好ええなあ」と惚れ惚れできないのであれば、続くヒースのドラミングが参戦してのく躍動感、疾走感のある展開に「すげーっ」と感動することができないのであれば、残念ながら、貴方の耳はジャズには向かないです(笑)。
ジャケットも実に良い。「Dark Beauty」=黒人の美。このドリューのピアノ・トリオの演奏の内容をしっかりと表現してくれてます。聴き応え十分。ジャズ者初心者の方々にお勧め。ジャズ者ベテランの方々も、今一度、 聴き直していかがでしょう。新しい発見があったりして、このアルバムはなかなか飽きません。
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