チックのファンタジー3部作・1
チックのコンポーザー&アレンジャーとしての才能には素晴らしいものがある。特に素晴らしいのが「構築力と構成力」。クラシックの交響曲や組曲の様に、アルバム全体のコンセプトを見渡しながら、それぞれの場面に適した曲を配し、一連の全体の流れとして、アルバム全体の音の流れを構築する。
クラシックでは当たり前な、コンポーザー&アレンジャーとしての「構築力と構成力」。ジャズを聴き始めた時、ジャズは即興の音楽故、クラシックで当たり前なことは、ジャズでは出来ないと思っていた。が、それは間違いだと気が付いたのは、エレクトリック・マイルスを体験した時。即興演奏を前提として、クラシックとまた違ったコンポーザー&アレンジャーとしての「構築力と構成力」を見せつけてくれた。
そして、クラシックの様に事前の譜面を前提として、そこにジャズの即興を織り交ぜ、クラシックの組曲の様な、一大絵巻の様なジャズ組曲を創り出し、クラシックと同様の「構築力と構成力」がジャズにも当たり前に存在することを教えてくれたのが、チック・コリアである。
そんなチック・コリア(Chick Corea)のコンポーザー&アレンジャーとしての才能が発揮された素晴らしい成果が1970年代中盤にある。『The Leprechaun』(1975年)、『My Spanish Heart』(1976年)、『The Mad Hatter』(1978年)の、僕が勝手に「チックのファンタジー3部作」と名付けた、コンテンポラリーなジャズ組曲アルバム3枚。この3枚のジャケット・デザインを眺めて貰えれば、なぜ「ファンタジー3部作」なのかがご理解いただけると思う(笑)。
さて、その「3部作」のトップ・バッター1975年作の『The Leprechaun』(写真左)である。邦題は「妖精」。このアルバムのジャケット・デザインを見て頂ければ、この『妖精』というアルバムが「チックのファンタジー3部作」のトップを飾ることについて、ご納得いただけるかと思う(笑)。しかし、このジャケット・デザインに引いている場合ではない、このジャケット・デザインに狼狽えている場合ではない。
このアルバム、タイトル通り、「妖精」をテーマにした、チックのコンポーザー&アレンジャーとしての才能が全開の「ジャズ組曲」なのだ。
曲毎にバリエーションや展開に十分な工夫が施され、弦楽四重奏団やブラスを入れたり、ゲイル・モランの幻想的なボーカルを織り込んだり、作曲&アレンジに工夫されている様子が十分に窺える。アルバム全体を通して、チックならでは、というか、チックでしか為し得ない「音世界」がこのアルバムの中にギッシリ詰まっている。
加えて、このアルバム、チックのキーボード、特にシンセサイザーのテクニックとセンスの良さが全開なのだ。このアルバムを聴いて感じるのは、チックのシンセの使い方は、ジャズ界の中でも突出して優れているということ。シンセを歌うように響かせ、様々な音色を配し、とにかく上手い。シンセのエフェクトの使い方のセンスが素晴らしい。
参加メンバーは、ズラーっと並べると、Danny Cahn(p), John Gatchell(tp), Bob Millikan(tp), Wayne Andre(tb), Bill Watrous(tb), Joe Farrell(reeds), Annie Kavafian(vln), Ida Kavafian(vln), Louise Shulman(viola), Fred Sherry(cello), Eddie Gomez(b), Anthony Jackson(b), Steve Gadd(ds), Gayle Moran(vo)。リズム・セクションは、ドラムのスティーブ・ガッドが要。チックとガッドの相性が抜群に良いことがが良く判る。
「チックのファンタジー3部作」のトップバッター『The Leprechaun(妖精)』。素晴らしいジャズ組曲・音絵巻です。決して、ジャケットのデザインに「引かないで」下さい。また、コンテンポラリー・ジャズ系の最高峰のキーボード・センスを学び、感じるに素晴らしい、最高のサンプルでもあります。
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