タイトルに惑わされるなかれ
1980年代、ウィントン・マルサリス一派を中心とした「ハードバップ復古」の動きがジャズ界を席巻した。「新伝承派」なんてジャンル言葉もあったなあ(定着しなかったけど)。
そんなハードバップ復古、メインストリーム回帰の動きの中で、新しく出てくる若く有能なテナー奏者は、こぞってコルトレーンを極めようとした。猫も杓子もコルトレーン・スタイルのテナー奏者ばかりで、聴く方は「耳にタコ」状態。
確かに、コルトレーンは、ジャズ・テナーの世界では、そのテクニックは最高に位置し、テナー奏者としては、コルトレーンを目指したい、極めたいという気持ちは良く判る。けど、ハイ・テクニックな演奏ばかり聴かされても、また、同じスタイルの演奏ばかりを聴かされても、演奏している方は一人なので十分に満足なんだろうが、聴く方は複数のテナー奏者を聴くこととなるので、同じスタイル、同じ奏法でやってこられると「もうええわ」という感じになる。
ここに、ケニー・ギャレットの『Pursuance: Music of John Coltrane』というタイトルのアルバムがある。ケニー・ギャレット(Kenny Garrett)は、1961年アメリカ生まれ。サックス奏者。1987年、マイルス・デイヴィスのグループに参加、マイルス晩年時代の門下生である。シンプルで判り易い展開とコード変化が特徴で、結構難しいことをやっているのにも拘わらず、ギャレットのサックスは結構、聴き易い。
さて、この『Pursuance: Music of John Coltrane』(写真左)というタイトルを見ると、これまた、若手サックス奏者のコルトレーン・スタイルのアルバムか〜、と触手が伸びなくなる可能性大である。それだけ、コルトレーン・スタイルの若手サックス奏者のアルバムは巷に溢れており、どれもが判で押したように、コルトレーンのコピーに終始している印象のものばかり。食傷気味になるのも当たり前。
しかし、パーソネルを見渡して見ると、ちょっとこのアルバムは趣向が違うのか、と思いたくなる。ちなみにパーソネルは、Kenny Garrett (as), Pat Metheny (g), Rodney Whitaker (b), Brian Blade (ds)。1996年2月の録音である。ところがである。んんっ、ギターにパット・メセニーの参加が目を惹く。しかも、ドラムはブライアン・ブレイド。これって、単なるコルトレーン・トリビュートのアルバムじゃあ無いのでは、と思い始める。
聴き始めると、その通り、単なるコルトレーン・スタイルをコピーしようとした、トリビュート・アルバムでは無い。確かに、コルトレーンが十八番とした楽曲を中心に選曲され、ギャレットのアルトもコルトレーン・スタイルを踏襲している。
と、言えばそうなんだが、単なるスタイルのコピーでは無く、コルトレーン・スタイルをギャレット風にアレンジして、「ギャレット風コルトレーン奏法」になっている。シンプルで判り易いコルトレーン風展開になっていて、そこにそこはかとなく、ギャレットの個性・語法がしっかりと織り交ぜられているところが良い。
そして、現代ジャズ・ギターの雄、パット・メセニーですが、ほぼ全編にわたって参加しており、メセニーのソロがふんだんに聴けます。メセニーお得意のギターシンセ、ピカソギターも繰り出し、目立つ目立つ。曲によっては、ギャレットがゲストのような内容のものもあって、ギャレットの懐の深さが偲ばれます。メセニーのストレート・アヘッドなギターを堪能することが出来ます。メセニー・ファンには堪りません。
リズム・セクションの、ベースのロドニー・ウィテカー、ドラムのブライアン・ブレイドも強烈なビートを叩きだしていますが、これがまたユニーク。決して、コルトレーンのカルテットをコピーしようとしているのではなく、コルトレーンのカルテットにインスパイアされつつ、今の時代のメインストリーム・ジャズとしてのビートを叩きだしているところが、これまた斬新。特に、ここでも、ブライアン・ブレイドのドラミングは実に個性的で、ずっと耳を奪われっぱなし。
良いアルバムだと思います。そう言えば、アルト・サックスでコルトレーンをやる、というのも、なかなか面白いチャレンジですね。
タイトルに惑わされるなかれ。このアルバムは、単純なコルトレーン・トリビュートなアルバムでは無い。このアルバムが録音された時は1996年。今の耳で振り返ると、このアルバムの音は、新しいジャズの発展が感じられる、結構、エポック・メイキングな内容ではないか、と感心しています。
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