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2010年12月 5日 (日曜日)

市原ひかりの「Smile」が良い

個人的にお気に入りなスタンダード曲って、それぞれあると思うが、僕の場合、この「Smile」は、もともと映画の挿入歌の時から、凄くお気に入りな曲である。
 
「喜劇王」の異名を持つ、チャーリー・チャップリン。そのチャップリンが作曲した楽曲のひとつが「スマイル(Smile)」。『モダン・タイムス』のラストシーンで印象的なイメージを残す素晴らしい楽曲である。ジャズ界ではボーカル中心にカバーされ、今ではスタンダード曲として扱われている。ナット・キング・コールやマイケル・ジャクソン、ダイアナ・ロスやエルヴィス・コステロなど、幅広い時代、幅広いジャンルでカバーされている。
  
僕は、この曲のエピソードである「チャップリンがアメリカを追放されてから20年後、再び同国の地を踏む契機となった第44回アカデミー賞授賞式のフィナーレで、彼がオスカー像を受け取る際、会場のゲスト全員で歌詞の付いたこの曲が歌われた」(Wikipediaより)を読む度に目頭が熱くなる。
 
よって、この「Smile」は僕の「大の」付くほどの、お気に入りである。が、最近、この「Smile」のカバー曲のお陰で、ヘビーローテーションになっているアルバムがある。市川ひかりの『Stardust』(写真左)。市川ひかりのサードアルバム。2007年5月のリリース。デビューして僅か2年目。スイング・ジャーナル選定ゴールドディスクにもなった佳作である。
 
ちなみにパーソネルは、Hikari Ichihara (tp,flh) Adam Birnbaum (p) George Mraz(b) Victor Lewis (ds) Aaron Heick (as,fl) Wayne Escoffery (ts)。ニューヨークでの録音になる。ベースとドラムのリズムセクションの要所に、手練れの、しかも僕のお気に入りのムラーツとルイスが配されており、このアルバムは聴く前から「佳作」のにおいがプンプン。
 
しかし、見た目は小柄で華奢な今どきの女の子。そんなルックスから、どう考えてもトランペットがまともに吹きこなせるとは思えない。スイング・ジャーナル選定ゴールドディスクも、スイングジャーナルがレコード会社とタイアップした(癒着した?)、完全な「やらせ」だと思っていた。
   
そんな否定的な見解の中でも、7曲目の「Smile」をどうしても無視できない。否定的な見解の中で、まあ、外れは外れで仕方が無い。それは「Smile」の存在が悪いのだ、とのノリでこのアルバムを手にした訳だが、この市川ひかりのサードアルバム、なかなかの内容で、意外とヘビーローテーションな一枚となった。
 
アレンジはすべて彼女自身が手がけている。このアレンジが実にユニーク。確かに、このアルバムの楽曲のアレンジには、賛否両論あるだろう。でも、僕は好意的に受け止めている。確かにちょっと大仰なアレンジもあるし、ちょっと場違いなアレンジもある。でも、全てのアレンジを市川ひかりが手掛けている、というところが「とても大切」なのだ。

Hikari_stardust
 
ミュージシャンたるもの、自らのリーダー作には、自らの矜持を持って相対して欲しいと思う。が、日本のジャズ界の最近の傾向として、プロデューサーや専門のアレンジャー頼りの「自分は吹くだけ」の、リーダーとしての矜持の欠片も無いアルバムが多々輩出されているのも事実。そういう観点からも、僕はこのアルバムでの市川ひかりのアレンジャーとしてのチャレンジを全面的に支持している。
 
特に、僕の大のお気に入りのスタンダート曲「Smile」では、なかなかポジティブで、実に日本人的なアレンジを施されていて、なかなかに楽しめる。確かに賛否両論はあろう。でも、僕はこの市川ひかりのアレンジを評価している。どんどんチャレンジしていって欲しい。とにかくユニークなアレンジである。一種歌謡曲な雰囲気も見え隠れする。これが良い。実に日本人的なアレンジである。
  
この『Stardust』の収録曲については、ざっと見渡すと、これはやり過ぎやろう、と思われる楽曲も見え隠れする。まだ、デビューして僅か2年ばかりの「駆け出し」として「I Remember Clifford」は早過ぎやろう、と思うし、「When You Wish Upon a Star (星に願いを)」は、明らかに甘すぎだ。まあ、それでも、一生で1回きりしか、そのスタンダード曲を演奏してはいけない、というルールがあるわけではないので、若くしてチャレンジするのは良いことだ。
 
内容がなければ、それはそれでちょっと困ったことなんだが、幸いなことに、このアルバムでの市川ひかりのトランペットはブリリアントに、良く「鳴っている」。女性ならではの様々なハンディを工夫して克服して、トランペットを実に上手く鳴らしていることに、心から感心している。なにも、大きな音でバリバリに吹き上がるだけが、ジャズ・トランペットでは無い。市川ひかりの個性が見え隠れする彼女のトランペットは、実にこれからが楽しみに思える。
  
彼女の自作曲である「走馬燈」「And They Lived Happily Ever After」も魅力的である。彼女にはコンポーザーとしての才も見え隠れする。しかし、「And They Lived Happily Ever After」とは小粋なタイトルである。おとぎ話の最後に言われる、『そして、ずっと幸せに暮らしましたとさ』という意味。こういう自作曲のタイトルに、その作者の才覚が見え隠れするものだ。このタイトルを見た時には、思わず「ニヤリ」とした。
  
良いアルバムです。日本人女子のトランペットなんぞ、と旧来の感覚での「聴かず嫌い」はいけません。女子のトランペットなぞ聴けん、などという男尊女卑もいけません。まずは聴いて頂きたいアルバムです。確かに荒削りなところもあるし、向こう見ずなところもある。何考えているんや、という展開もある。
 
それでも、アルバム全体から感じる、ポジティブで覇気ある雰囲気をこれだけ醸し出せる才覚には、今後の展開、成長が実に楽しみになります。自らのリーダー作で、自らを全面に出す。頭では判っていても、なかなか実行に移せるものではありません。言い換えると、このアルバムは市川ひかりの矜持を楽しむアルバムでもあります。
 
 
 
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コメント

市原さん、ファーストアルバムを持っています。
原朋直さんのお弟子さん(洗足音大での生徒)で、当時一番優れた生徒だったそうです。(私はYamahaで原さんのレッスン生でした)
演られる音楽の系統は若い方らしく原さんとは一線を画していますが、ペットの歌い方や音は原さんにそっくりなんですよね。太くて暖かいダークな音を好む傾向も原さんと同じでした。
それが、最近どこかのネット情報で市原さん自身がその「ダークで暖かい音から脱却したい」と毎日数時間をかけて練習に取り組んでいると述べているのを見ました。師である原さんの路線から卒業して自分自身の音をつかむためのつらい「もがき苦しみ」をされている最中のようです。
原さんの一番弟子とも言えた彼女が原朋直ワールドから羽ばたいて自分自身の世界を作ったとき、どんな音楽と音が生まれるのか、楽しみですね。

小林マサユキさん、はじめまして。松和のマスターです。
 
コメントありがとうございました。市原さんの音の変化、最新アルバムで
感じる事が出来ますよね。私もデビューアルバムを聴いていますが、
原朋直さんのお弟子さんとは知りませんでした。確かに、デビュー当時の
音は「太くて暖かくてダーク」。この「太くて」というところが、女性
らしからぬ個性で、頼もしく感じたのを思い出しました。

最新作では、もはや「女性トランペッター」の枠を飛び出して、単独の
トランペッターとして勝負できる位の音の個性を獲得しつつあるのでは
ないでしょうか。これからが楽しみで、次の作品を心待ちにしています。
 

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