ロリンズの歌心を堪能『Rollins Plays For Bird』
ジャズのアルバムの中には、そのミュージシャンの代表作として、ジャズ本に採りあげられることはほとんど無いが、そのミュージシャンの本質を的確に、聴く者に伝えてくれる「隠れ名盤」というものがある。
テナー・タイタン、ジャズ・テナー界の重鎮、最高峰のソニー・ロリンズの若き時代の本質を伝えてくれるアルバムとして『Rollins Plays For Bird』(写真左)がある。
1956年10月の録音になる。ちなみにパーソネルは、Kenny Dorham (tp) Sonny Rollins (ts) Wade Legge (p) George Morrow (b) Max Roach (ds)。今の時代から振り返ると、Wade Legge (p) George Morrow (b)は無名に近いミュージシャンになる。
しかし、このアルバムの内容は素晴らしい。ソニー・ロリンズの得意とする、ミッド・テンポからスロー・テンポの、言い換えると、ちょっと早歩きのテンポから、ゆったりとぶらりと歩くテンポまで、一番得意とするテンポのリズムに乗って、ロリンズは心ゆくまで、歌心の溢れる、孤高のソロを吹き上げ続ける。
内容としては『Rollins Plays For Bird』の題名通り、ビ・バップの祖、アルト・サックス奏者のチャーリー・パーカーに捧げて、パーカーお得意のビ・バップの名曲を、メンバーそれぞれがテクニックの粋を尽くし、歌心溢れる、実に小粋なインプロビゼーションを繰り広げている。
このアルバムの特徴は、1956年当時、まだまだビ・バップの影響が残っている時代にも拘わらず、メドレーではあるが演奏トータル25分超、そして、1曲が12分弱のハードバップな演奏が2曲、残り、5分ジャズの小粋な演奏を含めて、全3曲という少なさ。ビ・バップの演奏が平均3〜4分ということから考えても、このアルバムの演奏は、当時、時代の先端を行くもの。
これだけ長尺の演奏である。もともと長尺のインプロビゼーションに真価を発揮するロリンズは、心ゆくまで素晴らしいソロを吹きまくっている。このロリンズの心ゆくまでの吹きまくりが、全編で感じることができることが、このアルバムの最大の評価ポイントである。
そして、このアルバムをミュージシャンの本質を的確に、聴く者に伝えてくれる「隠れ名盤」としての評価を確固たるものとしているのが、バック・ミュージシャンの好演。まず、柔らかでハードバップな中低域を吹かせたら右に出る者がいない、ケニー・ドーハムのトランペットが絶好調。
加えて、今の時代から振り返ると、Wade Legge (p) George Morrow (b)は無名に近いミュージシャン二人の健闘。時に、ピアノのWade Leggeの「レッド・ガーランド」ライクな、コロコロ、シングルトーンな右手中心ソロは強く印象に残る。そして、ドラムのマックス・ローチが全面に出しゃばらず、シッカリとバッキング中心に小粋なドラミングを聴かせてくれているところも実に良い。
良いアルバムです。なにも大上段に構えて、大向こうを張るような、ハッタリをかますような大仰なインプロビゼーションばかりが全てではない。ここでのロリンズは、実に落ち着いているし、後のコルトレーンと比較すると、かなり「地味」ではある。しかし、真っ直ぐに、空に届くように真っ直ぐなトーンは、ロリンズならではの唯一無二なもの。このアルバムでのロリンズの真っ直ぐなトーンが僕は大好きだ。
このアルバムでのロリンズのインプロビゼーションには、他の誰もが追従できない「歌心」と「真っ直ぐなトーン」が溢れている。ジャズ者ベテランの方々のみならず、ジャズ者初心者の方々に対しても、このアルバムは大推薦の一枚です。
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