英国の70年代フュージョン
英国のジャズ事情というのは、実に複雑というかユニークである。米国では、ロックとジャズは相容れ無い、全く別々な独立したジャンルだった訳だが英国は違う。
英国は長年、ジャズト言えば「バップ」こそがジャズであり、エレクトリックなジャズはもう既にジャズでは無い。ましてやクロスオーバーなんぞ、ジャズでは無く、当然、フュージョンは絶対にジャズとは言わない。実に英国らしい頑なさである。
ちなみに、英国においては、フュージョン・ジャズは、米国のようなジャズのジャンルの発展形ではなく、1970年代ロックのジャンルの人気のジャンルである「プログレッシブ・ロック」との、ミュージシャンの「共有(シェア)」で主に発展した。つまり、プログレバンドが、その超絶技巧なテクニックを駆使して、ジャジーなアレンジを導入して、英国なりのフュージョン・ジャズに発展したということ。
例えば、このソフト・マシーン(Soft Machine)の『Bundles(収束)』(写真左)が良い例だろう。ソフト・マシーンは、1960年代後半から1980年代初頭にかけて、英国で活動した、サイケデリック+プログレッシヴなロック、いわゆる「カンタベリー・ミュージック」の最右翼のバンドである。
このバンドは、当初、確かにアコースティックな演奏が中心のサイケデリックなバンドだった。途中、ジャズの要素を取り入れたりして「ジャズ・ロック」の旗手ともてはやされたが、アコースティック中心で音が薄く、ジャジーなビートは希薄、キャッチャーなフレーズも乏しかったので、僕は好きになれなかった。
また、前衛性が先に立ち過ぎて、プログレと呼ぶには分厚く劇的な展開に乏しく、ジャズ・ロックというには、ジャジーでファンキーな要素が乏しい。どうにも、音の厚さに乏しいところが、好きになれない決定的な原因だった。
しかし、このソフト・マシーンの不思議なところは、バンドの音楽性を節操なく変化させていったところにある。この8作目にあたるこの『Bundles』は、カンタベリー・ミュージックに端を発し、ジャズロックに傾倒しつつ、いきなりフュージョン路線へと一大転換を図った、突然変異的なアルバムである。しかも、音の厚さに乏しいところが、劇的に改善されている。聴いてビックリである。
とにかく、細かい理由は良く判らないが、超絶技巧な弾きまくりギタリスト、アラン・ホールズワースを迎えて、ソフト・マシーンは、いきなり、フュージョン・ジャズに転身した。
ちなみにパーソネルは、Roy Babbington (b), Allan Holdsworth (g), Karl Jenkins (oboe, p,ss), John Marshall (ds,per), Mike Ratledge (org,el-p,syn), Ray Warleigh (fl)。メンバー名を見ても、全く馴染みの無い名前が連なるが、このアルバムは、完璧な「超絶技巧アルバム」である。
とにかく、アラン・ホールズワースのギターが凄い。「超絶技巧」とはこのこと。どうやったら、これだけギターが弾きたおせるのか、理解に苦しむ。破綻の無い、疾走感溢れる超絶技巧な世界。リーダー格だった、カール・ジェンキンスの曲造りの巧みさも見逃せない。インスト中心で、ビートに乗った演奏は、フュージョン・ジャズそのもの。
それでいて、ファンキーさは希薄、抑制されたオフ・ビート、技巧は徹底的に追求されるが、ポップでキャッチャーな売れ筋の追求は皆無。サイケデリック+プログレッシヴなロックな時代で培ってきた前衛性は全く無し。素朴でシンプルでドライな展開が特徴の、英国フュージョン・ジャズならではの演奏を聴くことができます。とにかく、全編に渡って、疾走感あふれる超絶技巧な演奏は「圧巻」の一言。
ちなみに、ホールズワースはこのアルバムにのみに参加したのみでソフト・マシーンを脱退。トニー・ウイリアムス率いるライフタイムに加入することになります。素朴でシンプルでドライな展開はこのアルバムのみで聴かれるものです。この『Bundles』は、英国ならではの、フュージョン・ジャズの名盤だと思います。
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