ロリンズ 対 コルトレーン
昔から沢山あるジャズ入門本、そして、ジャズ・アルバム紹介本。確かに良く書けているし、確かに良く整理されている。でも、その内容が絶対でないことは、ジャズを聴き始めて30余年、身にしみて判っている。
例えば、Sonny Rollonsの『Tenor Madness』(写真左)。二大テナー奏者である、ロリンズ 対 コルトレーンのテナー・バトルが聴ける、との触れ込みの有名盤である。1956年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Sonny Rollins (ts) John Coltrane (ts) Red Garland (p) Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (ds) 。当時、先取精鋭のマイルス・クインテットが御大抜きでロリンズに付き合った、プレスティッジ・レーベルお得意のジャム・セッション風アルバム。
ロリンズ 対 コルトレーンのテナー・バトルが聴ける、との触れ込みではあるが、この二人のバトルは冒頭の表題曲「Tenor Madness」のみで聴けるだけ。後はマイルス・クインテットのリズムセクションをバックにした、ロリンズのテナーのワンホーン作品。
コルトレーンはたまたま遊びに来ていたらしい。コルトレーンを引き込んでバトルをやったら面白かろうというノリで「Tenor Madness」。当時、コルトレーンはまだまだ駆け出しの発展途上。かたやロリンズは、若きテナー・ヒーロー。その立場の違いだけで、吹く前から既にロリンズの余裕勝ちなのだが、実際にロリンズは余裕で、コルトレーンの流儀でテナーを吹く。
コルトレーンはそれに挑みかかるが、如何せん、駆け出し発展途上。コルトレーン、まだまだだな、って感じなんだが、とにかくロリンズより吹きまくろうとしている様子はありあり。そのひたむきさと図々しさは、さすがコルトレーン(笑)。しかし、ジャズ入門本の中には、コルトレーンの圧倒的勝利なんて書いているものもあって、どんな耳をしているのかしらん、と訝しく思ったりする。
でも、ロリンズのユーモアとコルトレーンに対する思いやり、そして、それを受けたコルトレーンの生真面目さが良く出ていて、以外とこのセッションの雰囲気、きっと和やかだったんだろうな、と想像する。
2曲目以降は、マイルス・クインテットのリズムセクションをバックにした、ロリンズのテナーのワンホーン演奏。一応、ロリンズ名義のリーダーアルバムなので、ロリンズのテナーが全編に渡ってフィーチャーされる。
が、しかし、どの曲もどの曲も、ロリンズが我が者顔で吹きまくるのでは無く、ピアノのガーランド、ベースのチェンバース、ドラムのフィリージョー、それぞれにしっかりと長尺のソロパートを与えているところが面白い。テナーのワンホーンである。ペットと違って、テナーは長時間のソロに耐える楽器なので、吹きまくるところなのだが、ロリンズはしない。バックのリズム・セクションにしっかりとまとまった時間のソロ演奏のパートを与えているのだ。
2曲目以降の演奏が、ロリンズお得意のミドルテンポでの歌ものが中心なので、バックのリズム・セクションにしっかりとまとまった時間のソロ演奏のパートを与えている分、ロリンズのソロ演奏が短いのが残念だ。もっと我が儘に吹きまくって欲しかったなあ。当時、今をときめく、マイルス・クインテットのリズムセクションがバックですぜ。吹きまくるロリンズに対するバッキングの妙も聴いてみたかったなあ。
それでも、逆に返すと、ロリンズの律儀さ、ロリンズの真面目さがなんとなく感じられて、これはこれで面白い。まあ、当時、今をときめくマイルス・クインテットのリズムセクションだもんな。敬意を表して、まとまった時間のソロ演奏のパートを与えるなんて、ロリンズらしいといえばロリンズらしい(微笑)。
この『Tenor Madness』、ロリンズ 対 コルトレーンのテナー・バトルはそれほどでもなく、2曲目以降のロリンズのワンホーンの演奏も、バックのリズム・セクションにしっかりとまとまった時間のソロ演奏のパートを与えている分、演奏全体が冗長に感じられて、ちょっとガッカリします。
一部のジャズ入門本、ジャズ・アルバム紹介本では「名盤」として紹介されていますが、それ程のものではないのでは、と僕は思います。ロリンズ者には必聴ですが、ジャズ者初心者の方々が真っ先に聴くべきものではないでしょう。ジャズ者中級者向け。
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