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2010年11月29日 (月曜日)

ジャズ・ギターの可能性

よくよく考えてみると、ジャズ・ギターって、まだまだ表現上の可能性がある楽器である。特にエレギは、その可能性の範囲が広い。奏法面は成熟しつつあるが、音色や響きについては、まだまだ開拓の余地がある。ジャズ・ギターも「深化」の過程に入りつつある、とも言える。 
  
ちょっと昔になるが、1985年、Marc Johnson (b)をリーダーに, Peter Erskine (ds), John Scofield (g), Bill Frisell (g)のメンバーで結成された「Bass Desires」。そのファースト・アルバムが、その名もズバリ『Bass Desires』(写真左)。
 
ジャズ・ギター界きってのスタイリスト、というか「ねじれギター」の最右翼、ビル・フリゼールとジョン・スコフィールドのダブルギターに、ウエザー・リポート黄金時代のドラマー、ピーター・アースキン、そして、ビル・エバンス・トリオ最後のベーシスト、重量級ベースのマーク・ジョンソン。今、振り返ると、いやはや凄まじいメンバー構成である。
 
特に、フロントを張るギタリスト二人の個性が凄まじい。フリゼールの浮遊感あふれるギターが演奏全体の雰囲気を支配し、ねじれに捻れたジョンスコのギターが、その浮遊感をバッサリと切り裂く。フリゼールが捻れたギターで応酬すれば、ジョンスコが包み込むような拡がった音色でフリゼールのギターを包み込もうとする。そうはさせじとフリゼール。完全フリーでフォーキーなギターで全くの異次元にワープ。逃がすまじとジョンスコが同じ土俵で完全フリーなギターで応戦。いやはや、凄まじいギターバトル。
 
これだけギターが丁々発止と秘術を尽くした演奏を繰り広げられるのは、バックのドラムとベースの卓越したバッキングのお陰。さすがに、ウェザー・リポート黄金時代を支えたドラマー、ピーター・アースキン。このアースキンのドラムが凄い。パンパンと明快に力強くドラムを打ち抜きながら、凡人にはどうやって叩いているのか判らないほどのポリリズム。加えて、判り易い順なリズム。ポリリズムと素直な単純なリズムの合成がアースキンの真骨頂。
 

Bass_desires

 
そして、リーダーのマーク・ジョンソンのベースが全体の演奏をガッチリと引き締める。野太いベース、カッチリとした判り易いベースライン。個性派二人のギタリストの音に決して負けないどころか、ギタリスト二人の音を弾かんばかりのジョンソンのベース。そんなジョンソンのベースのアースキンのドラム。この2人のリズムセクションは、決して、フロントの個性派二人のギタリストに負けない。これが凄い。これが、このアルバムの素晴らしさを現出している。
 
このアルバム全編に渡って、素晴らしい演奏が繰り広げられているが、特に、その素晴らしさの象徴が、2曲目。コルトレーンの「至上の愛」からの「Resolution」であろう。この「Resolution」がギター2本でここまでの表現が出来るとは。感動である。この「Resolution」は聴きものである。

この類い希な演奏を聴くと、このコルトレーンの「Resolution」が時代やスタイルを超えた、とてつもなく優れた楽曲であることが判る。そして、その「とてつもなく優れた楽曲」を自らの個性で染めんとする4人の類い希な個性を有したミュージシャン達。

素晴らしいアルバムです。1985年、ハード・バップ復古、純ジャズ復古の時代、そんなトレンドにも我関せず、今で言うコンテンポラリー・ジャズ、先進的な純ジャズを思いっきり捻れながら、4人で活き活きと「やってます」。とにかく、その躍動感と疾走感、そしてテンションの高さ、イマージネーションの拡がり、どれをとっても素晴らしいものです。
 
ちょっとべた褒めでしたでしょうか。それほど、このアルバムは今の耳で聴いても、アグレッシブであり、プログレッシブである。さすがECMレーベル、懐が深い。凄いアルバムを残してくれたもんです(笑)。 
 
 
 
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