リトナーのAORな傑作・『Feel the Night』
1970年代に入って、ロックとジャズとの融合ということで、クロスオーバーというジャンル言葉が流行った。簡単に言ってしまうと、電気楽器を中心とした8ビート基調のジャズなんだが、これが1970年代前半を席巻した。
そして、1970年代半ばから、電気楽器を中心とした8ビート基調のジャズに、ソウル・ミュージックの要素とR&Bの要素が融合され、そこにソフト&メロウなAORな要素が合体して、フュージョンというジャンル言葉が確立した。1970年代後半から1980年代前半にかけての流行である。
私こと、松和のマスターは、このフュージョンの時代、学生時代ど真ん中、フュージョンの名盤、名曲を完全にリアルタイムで体験することになった訳ですから、フュージョン・ジャズに、ちょっとは造詣が深いのは当たり前と言えば当たり前。よって、フュージョン・ジャズやクロスオーバー・ジャズは意外と詳しかったりするんですよ、これが(笑)。
そんなフュージョン・ジャズの時代、フュージョン・ギターのヒーローの一人が「リー・リトナー(Lee Ritesour)」。リトナーのギターはフュージョン・フリークのヒーローでした。フュージョン・ギターを志す者は、猫も杓子もリトナー、猫も杓子もカールトン。1970年代後半当時は、僕は、リトナー派でしたね〜。今ではカールトンも好きですが、当時は、カールトンはお行儀が良すぎて、ちょっと敬遠していました。う〜ん、まだまだ「お子様」だったのかな〜(笑)。
さて、そんなフュージョン・ギターのヒーロー「リー・リトナー」。そんなリトナーのAORな傑作が『Feel the Night』(写真左)。1979年の発表でした。ソロのリーダー作としては「ファースト・コースト」(1976年)、「キャプテン・フィンガーズ」(1977年)、「キャプテンズ・ジャーニー」(1978年)に次いで、4作目になるのかと思います。
この『Feel the Night』は、当時、聴きまくった一枚です(笑)。全編に渡って、リトナーのギターの全てが詰まっています。それも、極上のフュージョン・ギター。テクニック抜群、歌心抜群、イマージネーション抜群、アレンジ抜群。フュージョン・ジャズの世界の中で、名盤中の名盤の一枚に位置づけられる、類い希な出来を誇る、今でも無敵なフュージョン・アルバムです。
何が良いって、このアルバムには、フュージョン・ジャズの特徴の全てが詰まっているんですよ。フュージョン・ジャズってどんな音なんですか、と聴かれたら、まずはこのアルバムあたりを黙ってかけます。音楽っていうのは「理屈やうんちく」よりは、まずは聴くことですよね。その目的の音がズバリ体験できるアルバムを聴くことで、その目的の音がズバリ判る。音楽ってそんなもんですよね。
冒頭のタイトル曲「Feel The Night」の出だしのブラスセクションの分厚い音と共に滑り出てくるリトナーのちょっと太いエレギの響き。当時、どれだけ繰り返し聴いたんだろう。このアルバムでのリトナーのエレギは、実に伸びやかで、ちょっと野太く、歯切れが良い。なんだか、吹っ切れたように自信満々にエレギを弾きまくる。そんなリトナーが頼もしく、美しく、格好良い。とにかく、リトナーのエレギの格好良さが際立つ名盤だと思います。
この『Feel the Night』が、かなりAORよりなアレンジになったのは、ディヴィッド・フォスターと組んだこと。それまで、デイブ・グルーシンと組むことが多かったのですが、ディヴィッド・フォスターと組むことで、AOR的な雰囲気が全面に押し出されました。これがこのアルバムが成功した大きな要因でしょう。
レオ・セイヤーの大ヒット曲のカバー「You Make Me Feel Like Dancing」でのパティ・オースチンのパンチのあるヴォーカルも実に良い感じです。そして、通好みのスティーブ・ガットのドラムとエイブラハム・ラボリエルのベースが織りなすリズムセクションの、しなやかで粘りのあるパンチの効いたビートは「心地良し」の一言。やはり、純ジャズもフュージョン・ジャズも名盤と呼ばれるアルバムのセッションには、優れたリズム・セクション有り、ですよね〜。
フュージョン・ジャズってどんな音なんですか、と聴かれたら、まずはこのアルバム。良いアルバムです。そして、この晩秋の夜長には、アコースティックサウンドが沁みる、極上のバラード曲「Midnight Lady」に耳を傾けて、心からしみじみして、遠く過ぎた若き日の、悲しき恋などを思い出して、ちょっとニヤニヤしてしまったりするのだ。
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