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2010年10月12日 (火曜日)

ジャズ史上最高の「枯葉」

昨日は夏日の再来だったが、とにかく、酷暑の夏は去って季節は秋である。今年の秋は、秋の割には雨が多い。というか、雨ばかり降っているイメージがある。秋晴れ、日本晴れの日が続くのが10月の関東地方なのだが、今年はちょっと事情が違う。
 
我が千葉県北西部地方では、温暖化の影響もあってか、紅葉の季節は、11月下旬から12月の上旬という、晩秋というか、初冬の時期に紅葉の季節がやってくる。紅葉の季節が去って「枯葉」の季節になるのだが、今はまだ10月中旬に差し掛かった辺り。「枯葉」のシーズンにはまだ早いのだが、秋=枯葉という図式が頭の中にあって、ジャズ・スタンダードの「枯葉」を聴くことが、秋のお決まりとなっている。
 
ジャズの大スタンダード曲の「枯葉」。大変有名なシャンソンのナンバーである。ミディアム・スローな短調のバラードで、シャンソンの曲として、世界的にも有名なスタンダードである。恐らく、主旋律を聴けば、必ず皆さん「ああ、この曲か」と思い出して貰える、それはそれは大衆的なスタンダード曲である。
 
ジャズの分野では1952年にスタン・ゲッツが録音したのが先駆。以来、相当数の演奏が存在する。コーラス部分の独特のコード進行が格好のアドリブの素材になったことが理由だが、ジャズ・ミュージシャンと呼ばれる人達は必ずと言って良いほど、ミュージシャン人生の中で、一度はこの「枯葉」を演奏する。よって、ジャズ・ミュージシャンの数だけ「枯葉」の演奏が、レコーディングがある、ということになる。
 
そんな巷溢れる「枯葉」の演奏の中で、ジャズ史上最高の「枯葉」の演奏はどれか。僕は、Cannonball Adderley(キャノンボール・アダレイ)の『Somethin' Else』(写真左)の冒頭1曲目の「枯葉」が最高だと思う。この『Somethin' Else』というアルバム、ちなみにパーソネルとはと言うと、Miles Davis (tp) Cannonball Adderley (as) Hank Jones (p) Sam Jones (b) Art Blakey (ds)。マイルス・ディヴィスの名前が目を惹く。
 

Somethin_else

 
このアルバムの成り立ちについては、ジャズ本に様々な形で、様々な人達が語り尽くしているので、そちらを参照されたい。が、簡単に言うと、マイルスが麻薬に溺れて不遇な時代に、レコーディングの機会を作ってマイルスを支援した、ブルーノートの総帥アルフレッド・ライオンに対して、マイルスが麻薬禍を克服、大手コロンビアレーベルの専属としてメジャーになった折、そのライオンへの恩返しに、キャノンボール・アダレイ名義でブルーノートに録音した名盤である。
 
このアルバムでの「枯葉」が素晴らしい。十分に練られたであろう、素晴らしいアレンジ。ハードバップ全盛期、熱気とファンキーさを演奏の底に漂わせつつ、内に秘めながら、クールに、ジャジーに、ブルージーに、冷静に、実に良くコントロールされ、ジャズの持つ俗っぽさを抑制し、この「枯葉」という超有名曲を、実にアーティスティックに演奏する。ジャズが「流行音楽」の粋を出て、「芸術音楽」の域に踏み込んだ、その証明のような「枯葉」である。
 
マイルスのミュート・トランペットが。クールで切れ味抜群。熱気とファンキー爆発なハードバップな演奏の全く対極を行くクールで静的な、それでいて「青い冷静な熱気」を感じさせてくれる、マイルスならではのアレンジとパフォーマンス。他のミュージシャンも、それぞれの個性を活かしながら、マイルスの音世界に、マイルス独特のハードバップ解釈に精魂込めて追従する。
 
マイルスの凛としたテーマを受け継ぎ、滑り込む様に入ってくるキャノンボールのアルトサックスは、実にスリリング。ブレイキーのハイハットを刻むテンションは「マイルスの音世界」への共感。ハンクのピアノは「典雅」そのもので「枯葉」の俗っぽさを消し去り、サム・ジョーンズの野太いベースは、演奏全体の「ボトム」をガッチリと支える。テクニック抜群、切れ味抜群、演奏されるそれぞれの楽器の音も実に生々しく響く。
 
この『Somethin' Else』というアルバムは、実質的にはマイルス・デイヴィスのリーダー・アルバム。この「枯葉」の演奏とアレンジを聴くと、それが十分に納得出来る。この「枯葉」の音世界は、マイルスしか為し得ない、マイルスのみが表現できる「音世界」である。
 
ブルーノートの総帥アルフレッド・ライオンは、この『Somethin' Else』の録音テープに「Miles」と書き記したと聞く。納得の一言。このマイルスの「枯葉」は、ジャズ史上最高の「枯葉」だと僕は思っている。
 
 
 
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