最近のトラックバック

« スタバに「粋なジャズ」 | トップページ | 続・不可解な「チャレンジ」 »

2010年9月15日 (水曜日)

ちょっと不可解な「チャレンジ」

ビル・エバンスのヴァーヴ時代を俯瞰すると、他のレーベルの時代には無い、ユニークと表現して良いのか、なんと表現して良いのか、今の耳でも、ちょっと不可解な「チャレンジ」が幾つかある。

その代表格が『Conversations with Myself(自己との対話)』(写真)。1963年録音。ビル・エバンス自身のピアノを多重録音して制作した実験的作品である。1963年当時、ジャズの世界も、ポップ・ミュージックの世界も、そのアルバム作成の録音は「一発録り」。ビル・エバンスは、このアルバムで「多重録音」を採用、当時としては斬新と言えば、斬新なチャレンジではある。

ジャズでは、ピアノ単独のソロ演奏を収録したアルバムは多々ある。そして、ジャズでは、その演奏の録音は「一発録り」が基本。現在のポップ・ミュージックの様に、リズム・セクションを録音して、それをベース・トラックにして、最後にボーカルを録音する多重録音を採用することは、「再現性が無い」即興演奏が基本のジャズではあり得ない。この『自己との対話』で、敢えて、なぜ「多重録音」を採用したか、個人的に「首を捻りたくなる」アルバムである。

この「多重録音」について、そのイメージを簡単に表現すると、相手ミュージシャンと、双方で触発し合いながら、即興的でスリリングなインプロビゼーションを創造していく、いわゆる「インタープレイ」を、相手ミュージシャンにでは無く「自分」に求めた、つまり、自分で自分自身を触発し、即興的でスリリングなインプロビゼーションを創造しよう、という試み、という感じになる。3台のピアノが、左右、そして真ん中から聞こえ、それぞれがソロ・ピアニストの様に、インタープレイを仕掛けている。

Conversations_withmyself_2

その成果は、と言えば、私個人的には「?」。そもそも、ピアノには旋律楽器と打楽器の2つの楽器の特性があり、ピアノは、その2つの特性を同時に弾き出す事が出来る特殊な楽器である。故に「一人オーケストラ」と呼ばれることがある位だ。一人でその2つの特性を有機的に活用して、旋律楽器と打楽器の「インタープレイ」を表現するのが「ソロ・ピアノ」。ピアニスト単独のソロ・パフォーマンスである。

その旋律楽器と打楽器の2つの特性の「インタープレイ」が3通り、3重に、この『自己との対話』は録音されているので、出てくる音が「賑やかなこと」この上ない(笑)。とにかく「賑やか」。旋律楽器的特性と打楽器的特性が3通りに重なった音として出てくるので、ハッキリ言って「うるさい」。しかも、多重録音が故に、それぞれのピアノの音のタイミングが微妙にずれるのだが、その「ずれ」が、多重録音の結果として、同じピアニストが出す「ずれ」であり、故に、同じタイミング、同じ癖での「ずれ」が実に人工的かつ機械的に聞こえて、とにかく気持ちが悪い。

アルバム全編に渡って感じる「躁的な賑やかさ」は、決してアーティスティックな雰囲気ではない。一種、アクロバティックな雰囲気で、ピアノ・ソロの陰影、演奏の間、フレーズの切れ目・つなぎ目など、ピアノ・ソロ独特の「美点」が多重録音で消されていて、どうかなあ、と思ってしまう。しかし、このアルバムはグラミー賞受賞しているんですよね。当時の米国音楽界の評論家筋の感覚は良く判らんなあ。

ビル・エバンスのピアノ・ソロが3通りに、絡み合って重なって、とにかく「躁状態」の、とにかく賑やかなソロ・ピアノ。それぞれのトラックのソロ・ピアノの内容が良いだけに、重ねる必要があったのかなあ、とも思うし、なぜ当時のプロデューサーは思いとどまらせることは出来なかったのか、とも思ってしまう。ビル・エバンスのアルバムの中でも、ちょっと不可解な「チャレンジ」だと僕は解釈している。 
 
 
 
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。   
 
 

« スタバに「粋なジャズ」 | トップページ | 続・不可解な「チャレンジ」 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/80793/36755747

この記事へのトラックバック一覧です: ちょっと不可解な「チャレンジ」:

« スタバに「粋なジャズ」 | トップページ | 続・不可解な「チャレンジ」 »

リンク

  • 松和 / ジャズ・フュージョン館
    ホームページを一新しました。「ジャズ・フュージョン館」と「懐かしの70年代館」の入り口を一本化し、内容的には、当ブログの記事のアーカイブを基本としています。  
  • 松和 / 懐かしの70年代館入口
    更新は停止し、新HPへ一本化中。新しいブラウザーではレイアウトが崩れたりと申し訳ありません。
2017年2月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28        

カテゴリー

常連さんのブログ

  • 70年代思い出の名曲
    music70sさんのブログ。タイトル通り、定期的に、70年代の懐かしのアルバムを紹介されています。なかなか、マニアックなアルバム選択、曲選択に、思わずニンマリしてしまいます。
  • いそいそジャズ喫茶通い
    yuriko*さんのブログ。都内のジャズ喫茶への訪問記録。ジャズと言えば『ジャズ喫茶』。敷居が高くて、と思っている方々に是非読んで頂きたいブログ。実際の訪問記録ですから読んでいて楽しく、実際の訪問時の参考になります。
無料ブログはココログ