この若さ、このハイテク『Moving Out』
ジャズ・テナーの中で、一番のお気に入り、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)のリーダー作の聴き直し。第2弾は『Moving Out』(写真左)。
1954年8月と10月の2つのセッションをカップリング。ちなみに、8月のセッションのパーソネルは、Kenny Dorham (tp) Sonny Rollins (ts) Elmo Hope (p) Percy Heath (b) Art Blakey (ds)。Elmo Hope(エルモ・ホープ)の参加が目を惹く。このメンバーで、1曲目の「Moving Out」から、「Swingin' For Bumsy」「Silk 'N' Satin」「Solid」の4曲を演奏する。
そして、10月のセッションのパーソネルは、Sonny Rollins (ts) Thelonious Monk (p) Tommy Potter (b) Art Taylor (ds)。このメンバーで、ラスト5曲目の、10分強の長尺バラード「More Than You Know」を演奏する。
しかし、なぜパーソネルが全く異なるセッションを1枚のLP(アルバム)に詰め込むかが判らない。それが個性とも言えるのだが、全くもって、プレスティッジというレーベルは、いい加減なレーベルである(笑)。8月のセッションと10月のセッションの間での「類似性」は全く無い。5曲目の「More Than You Know」を聴くと、明らかに、前の4曲とはメンバーが違うということが「まる判り」。
冒頭の「Moving Out」そして、2曲目の「Swingin' For Bumsy」を聴くと、このアルバムの録音当時、24歳の若さで、素晴らしい速吹きテクニックにビックリする。よく聴くと、ところどころブロウが速すぎて、前のめりになって、若干滑るようなところがあり、この2曲の高速ブロウを聴くと、ロリンズは才能と本能だけで、このハイテクニックな高速フレーズを叩き出していることが窺い知れる。
ハイテクニックな高速フレーズと言えば、ジョン・コルトレーンの「シーツ・オブ・サウンド」を思い出す。コルトレーンの高速フレーズは「メカニカル」。デジタルのビット列の様に音符を敷きつめ、機械的なフレーズが延々と続く。練習に練習を重ね、鍛錬に鍛錬を重ねることで手に入れたハイテクニック。努力の音、努力のフレーズである。
しかし、ロリンズのハイテクニックな高速フレーズは「アナログチック」なもの。ところどころ、速すぎて「滑ってしまう」危うい箇所のあるが気にしない。速吹きのフレーズはイマージネーションに溢れ、どこを切り取っても「ロリンズ節」である。ロリンズ本人でないと出ない「タイミングと間」を持った、独特の速吹きフレーズ。本能の音、感性のフレーズである。
そして、3曲目の「Silk 'N' Satin」と5曲目の「More Than You Know」のバラード演奏の素晴らしいこと。ロリンズの豪放磊落、男性的なテナーの音で、感性のフレーズを悠然と展開していく、このロリンズの余裕。力強いテナーの懐の深いフレーズに、ついつい聴き惚れてしまう。
極めつけは、ミドル・テンポの「Solid」。ロリンズは、このテクテク歩くテンポでのブロウが最高だ。余裕綽々、悠然自若、歌心溢れるフレーズ、心地良いテンポのアドリブ。つられて、トランペットのケニー・ドーハムもキラキラした、余裕の響きを「キメてくる」。エルモ・ホープのバップピアノも、コロコロと軽やかに心地良くドライブし、アート・ブレイキーのドラムとパーシー・ヒースのベースが、演奏全体を引き締める。良い感じです。
当時、ロリンズは若干24歳。そして、このハイテクニックな高速フレーズは素晴らしいの一言。何も、コルトレーンの「シーツ・オブ・サウンド」だけが、ハイテクニックな高速フレーズではない。実は、ロリンズも、この「ハイテクニックな高速フレーズ」では負けてはいない。自らの音の個性になんとなく合わないので、あまり全面に出さないまで、と、僕は勝手に解釈している。
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