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2010年8月21日 (土曜日)

ECMのユニークなアルバム達・1

ECMは「Edition of Contemporary Music」の略。創立者のマンフレート・アイヒャーの美意識が中心の、マンフレート・アイヒャーの感性でのみ、アルバムを制作する。そのユニークなレーベルの成り立ちから、他のレーベルには無い、内容が実にユニークなアルバムが多々存在する。

1971年に録音された『Ruta And Daitya(ルータ&ダイチャ)』(写真左)。今や、ジャズ・ピアノの重鎮キース・ジャレットとジャズ・ドラムの鬼才ジャック・デジョネットのデュオ・アルバムである。この二人は、後に「スタンダーズ・トリオ」として一世を風靡する訳だが、既に、こんなところでデュオ・アルバムをリリースしていた。そして、さすがはECM、このアルバムの内容が、実にユニークなのだ。

キースは、現在、アコースティック・ピアノ一辺倒であるが、このアルバムでは、マルチ・プレイヤーとして、アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノ、ウッドフルート、ソプラノ・サックス、パーカッションなどを縦横無尽に駆使。目を引くのは、今でも「絶対に弾かない」と頑張っているエレピをガンガンになって弾き倒しているところ。マイルスの下でのサイドマン時代以外で、キースのエレピが本格的に聴けるアルバムが数少ない。この『ルータ&ダイチャ』はそんなキースのエレピがふんだんに聴けるアルバムの一枚。

デジョネットのドラムは、そのポリリズムックでダイナミックなドラミングは勿論のこと、各種パーカッションも駆使して、繊細かつ自由度の高いリズム&ビートを供給する。これだけ、自由度の高い、パーカッションを駆使して繊細なニュアンスも見せつけるデジョネットも特筆に値する。
 

Rutadajjya

 
他のアルバムでは、あまり聴くことの無い、キースとデジョネットが、かなりフリーに近い、自由度の高いインプロビゼーションを聴かせてくれる。途中、フリーに走るところもあるが、しっかりと底に流れる「秩序」の下に戻ってくる。フリーではない、が、4ビートや8ビートの様な既成のビートにのった定型的な演奏でも無い。旋律はそこはかとなくキャッチャーで、親しみ易い、米国ルーツ・ミュージック的な響きが見え隠れする。これはキースの趣味だろう。

そして、このキースのエレピが素晴らしい。マイルスの下で弾き倒していた通りの「グニュグニュ、ギュワーン、ギュギュギュギュ、ウワウワーン」という、独特に「ねじり倒した」、キース独特のエレピが聴ける。これだけ、フェンダー・ローズを使い倒して、フリー・ジャズ的な音色を出しまくるキーボード奏者は、当時、キース・ジャレットとチック・コリアくらいだろう。とにかく凄い。限りなくフリーに近い、それでいて、しっかりとジャズ的要素を持った、捻れまくったフェンダー・ローズの響き。この音を聴けるだけで、このアルバムの存在意義があると言っても過言ではない。

キースのアコピも、その響きが面白い。面白いというのは、その響きが、その後、一世を風靡するキースのソロピアノのフレーズと全く一緒なのだ。このアルバムの時点で、キースのソロピアノの「手癖」は固まっていたということである。う〜ん、味わい深い内容である。

このアルバムの全体の雰囲気の源は、エレクトリック・マイルスにあると感じている。キースもデジョネットもエレクトリック・マイルス初期の重要メンバー。このデュオの演奏にマイルスのトランペットが加わっても何の違和感も無い。しっかりと底に流れる「秩序」の下、かなりフリーに近い、自由度の高いインプロビゼーション。このデュオ・アルバムには、エレクトリック・マイルスとの共通項が見え隠れする。

ECMレーベル独特の、わずかにリバーブのかかった深いエコーの音作りが、キースとデジョネットのダイナミズムと繊細さを増幅させる。良いアルバムです。ECMレーベルの面目躍如たる、とにかく、ユニークな内容のアルバムです。 
 
 
 
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