ECMが持つ透明感と静謐感
ECMレーベルは実にユニークなレーベルである。1969年、ドイツ・ミュンヘンのマンフレット・アイヒャーによって設立されたレーベルだが、実にユニーク。
音作りのコンセプトは「The Most Beautiful Sound Next To Silence」(沈黙の次に美しい音)。わずかにリバーブのかかった深いエコーの音作りは、好みの分かれるところではあるが、欧州出身のジャズ・レーベルという点では、その音作りは十分に理解出来る。
このレーベルからリリースした多くのジャズミュージシャンが現代音楽好きだったことが、そもそもの動機だったらしいが、このECMレーベルのアルバムには、ジャズのフォーマットを踏襲しつつ、現代音楽的な内容を持つアルバムが少なくない。クリスタルな透明感、切れ味の良い、適度に自由なインプロビゼーション中心の佳作が多くリリースされている。
このところ、猛暑、猛暑日の激しく暑い夏。もう頭は溶けてしまい、普通のジャズを聴く気力も無い。そんな時、エアコンの効いた部屋で聴くECMの現代音楽的ジャズは、またとない「清涼剤」。格好の一枚、John Abercrombie & Ralph Townerの『Sargasso Sea』(写真左)を聴く。
ECMレーベルのを代表するギタリスト、ジョン・アバークロンビーとラルフ・タウナーによる叙情感たっぷりのデュオアルバムである。どちらもジャズ・ギタリストとは良いながら、全くと言って良いほど、ハードバップ感が無い。ファンキー感は皆無。どちらかと言えば、インプロビゼーションを前提としたクラシック・ギターの音のアプローチに近い。クラシックの要素をしっかりと踏まえた「欧州ジャズ・ギター」の音である。
そんなジョンアバとラルタウがガップリ四つに組んだ、限りなくフリーに近い、ジャズ的なフォーマットを踏襲したインプロビゼーション中心の、限りなく自由度の高い「デュオ・アルバム」である。「動」のアバクロ、「静」のラルタウ、好対照な欧州ジャズ・ギターが、デュオの構成の中、丁々発止と絡み合い、挑発し合い、バランスを取り合う。
超絶技巧なテクニックの中に、整然とした限りなくフリーなジャズ・インプロビゼーションがここにある。ECMレーベル独特のわずかにリバーブのかかった深いエコーの音作りが静謐感を増幅する。凛とした響き。クリスタルな切れ味。清涼感たっぷりなギター・デュオ。収録されたどの曲を聴いても、その印象は変わらない。確固たる主義主張を持った音作りとインプロビゼーションには感心することしきり。頭が下がる思いだ。
1976年の作品。時代はフュージョンジャズ・フィーバー真っ只中。そんな中で、ECMレーベルは、この『Sargasso Sea』のような、ジャズのフォーマットを踏襲しつつ、現代音楽的な内容を持つアルバムをリリースしていたのだ。素晴らしい運営方針、運営ポリシーを持ったレーベル。だからこそ、僕たちは、今でもECMレーベルの音楽を聴くのだ。
ジャケットも良い。ECMレーベルの雰囲気満載。クリスタルな透明感、切れ味の良い、適度に自由なインプロビゼーション中心の佳作は、夏の暑い日にピッタリ。エアコンの無い、開けっ放しの部屋でも「良し」、エアコンの効いた部屋では「なお良し」。
ECMレーベルが持つ透明感と静謐感が、ジョン・アバークロンビーとラルフ・タウナーによる叙情感たっぷりのデュオ・ギターが、酷暑の夏を忘れさせてくれる。でも、このアルバムは、厳冬の冬には「厳禁」。心が透明に凍り付いてしまいます(笑)。
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なるほど、ECMは現代音楽よりのレーベルだったのですか。では、ECMから、現代音楽のCDは、出ているのでしょうか。以前、ステーブ・ライヒの作品を、パット・メセニーが、ギターのソロで、やっていましたが、それは、ノンサッチというレーベルでした。
投稿: 塾長 | 2010年8月16日 (月曜日) 23時00分
塾長さん、こんばんは。松和のマスターです。
お返事、遅れました m(_ _)m。はい、ECMは現代音楽のアルバムもリリース
しています。1984年 ECM New Seriesとして、現代音楽のリリースを始め、
徐々にその幅を拡げて、古楽や舞台音楽、映画音楽、詩の朗読のアルバムなど
も手掛けているようです。
投稿: 松和のマスター | 2010年8月18日 (水曜日) 20時44分