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2010年7月14日 (水曜日)

もう一つの「テープ・コラージュ」

一昨日、マイルス・デイヴィスの優れた演奏素材を、プロデューサーのテオ・マセロが「テープ・コラージュ」のテクニックを駆使して出来上がった傑作『In a Silent Way』について語った。

この『In a Silent Way』は、マイルスのセッションの録音を、プロデューサーのテオ・マセロがテープ編集を駆使して出来上がった、いわゆる「テープ・コラージュ」の成果だとして、決して、マイルスの音楽的成果では無い、などと言う無かれ。マイルスのセッション演奏の素材が、優れているからこそ為し得た「テープ・コラージュ」の傑作である。

さて、マイルス・デイヴィスの優れた演奏素材を、プロデューサーのテオ・マセロが「テープ・コラージュ」のテクニックを駆使して出来上がった傑作には、もう一枚ある。『Tribute to Jack Johnson』(写真左)である。マイルスが1970年に発表した「ロックなアルバム」の代表作。1900年代初頭、初の黒人ヘビー級チャンピオンとして活躍した伝説のボクサー、ジャック・ジョンソンをテーマとして作られた映画のサントラである。

このアルバム、マイルスがテオ・マセロに金を渡し、編集を頼んだ結果出来上がった作品である。『In a Silent Way』は、マイルス・デイヴィスの優れたセッション演奏を、プロデューサーのテオ・マセロが「テープ・コラージュ」を駆使して、苦心してアルバムとして編集した「苦肉の策」といえば「苦肉の策」的な音楽的成果であった。

しかし、この『Tribute to Jack Johnson』は違う。明らかに、「ロックなアルバム」に向いたセッション素材を、マイルスは確信を持って、テオに「テープ・コラージュ」を頼んでいる。つまり、マイルスは自らのセッション演奏の成果を「テープ・コラージュ」によって、ひとつのサントラを作成することを予め想定していた、ということである。そして、テオは、そのマイルスの確信に、最高の成果をもって応えている。

1曲目(といってもLP時代ではA面全てを占める長尺物)「Right Off」の出だしを聴けば良く判る。ジョン・マクラフリンのカッティング・ギターの凄まじさ。当時、1970年のロックなんて全く相手にならない。その弾き出されるロック・ビートの鋭さ、激しさ、凄まじさ。

Jack_johnson

そして、触れば切れるような「鋭敏なビートのエッジ」をバックに、満を持して、いきなり出てくるエモーショナルで激しいボーカルのようなマイルスのペット。ギターに追従する超重量級のベース&ドラム。ギターに負けないエモーショナルな熱く激しく打ち付ける様な強靱なビート。「ビートだ、ビートが一番重要だ」、マイルスの言葉が実に説得力をもって迫ってくる。

しかし、単純なカッティング中心の8ビートは判り易いが、飽きると言えば飽きる。マイルスは、この「Right Off」で、当時のロックの8ビートは、単純で判り易く、一般の若者には受けが良いが、決して、アーティステックで創造的な、拡がりとイマージネーション溢れるもの、ではないということを証明している。

確かに単純な8ビートが続く26分53秒。飽きると言えば飽きる。でも、そんな弱点をカバーして余りある、エモーショナルで激しいボーカルのようなマイルスのペット。やはり、このアルバムでも、最終的には、マイルスのペットに尽きる。

2曲目(といってもLP時代ではB面全てを占める長尺物)「Yesternow」の演奏内容の方が数段素晴らしい。カラフルな幽玄さ、緊張感溢れる浮遊感、漂う様な拡がりのあるビート感。そんな印象的な演奏をバックに、ここでも、モーショナルで激しいボーカルのようなマイルスのペットが闊歩する。肩で風を切って、悠然と堂々と、孤高のペットが鳴り響く。

そして、途中から滑るように入ってくる、ゆったりとした、それでいて強靱なビート。ここでのビートは複雑。ポリリズムをそこはかとなく駆使して、カラフルな上に、効果的なチェンジ・オブ・ペースを折り込んだ、柔軟かつ強靱なビートが凄い。そして、その強靱なビートに負けないどころが凌駕して余りある、マイルスのペットの凄まじさ。
 
『Tribute to Jack Johnson』は、「お望みなら、世界最高のロック・バンドを組んでみせるぜ」と有言実行した(格好良いなあ〜)マイルスとテオの「テープ・コラージュ」の最高の成果のひとつである。この『Tribute to Jack Johnson』のテープ・コラージュに使用されたマイルス・デイヴィスの優れた演奏素材を心ゆくまで堪能したいのであれば、CD5枚組ボックスセットの『The Complete Jack Johnson Sessions』があります。これはこれで、それはもう凄まじい内容です。

ちなみに、我がバーチャル音楽喫茶『松和』の「ジャズ・フュージョン館」、月一更新のコーナー「ジャズの小径」2008年6月号(左をクリック)にも、テオ・マセロの追悼記事として、『In a Silent Way』と『Tribute to Jack Johnson』をご紹介しています。よろしければ、こちらもご覧下さいね。
 
 
 
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