マイルスとギルのコラボ『Miles Ahead』
マイルス・デイヴィスとギル・エバンスとのコラボレーションとして『Miles Ahead』『Porgy And Bess』『Sketches Of Spain』『Quiet Nights』が代表的な4枚なんだが、僕が一番、長年愛でているアルバムが、Miles Davis『Miles Ahead』(写真)。
マイルス・デイヴィスとギル・エバンスとのコラボレーションの最初のアルバムなんだが、これがもう、ギルのアレンジは伸び伸び、活き活きとしていて、自由闊達かつ理論整然。そんなギルの名アレンジをバックに、クールに優しく柔らかく切れ込むように、輝くように煌めくように、マイルスのペットが飛び回る。
マイルスのリーダー作では、どのアルバムでも、絶対にマイルスのトランペットが、クールに美しく輝くように、ど真ん中で鳴り響いているが、この『Miles Ahead』では、とにかく、マイルスのペットが格好良く、優しくクールに響き渡る。
ギル独特のチューバやクラリネットを駆使したアレンジが、マイルスのペットのコントラストを浮き立たせる。ギルのアレンジは、自由闊達、理論整然。その響きはジャジーでメリハリが効いていて、恐らく、ギルが迷い無く、自由に自分のやりたいことを全て詰め込んだアレンジだろうことが良く判る。とにかく、バックのジャズ・オーケストラも弾けているのだ。ブラスの煌めきが眩しいくらい。
こんな素晴らしいバックであれば、マイルスは何の不満も無く、マイルスとして一番マイルスらしい、素の姿のマイルスのペットを切々と、面々と、喜々と、堂々と吹き上げていく。さすが、マイルス・デイヴィスとギル・エバンスとのコラボレーションの最初のアルバム、ギルもマイルスも気合いが入りまくっている。
マイルスの自伝を紐解くと、このギルとのコラボレーションについて、こんなコメントがある。「オレにはアイディアがあったんだ。編成を大きくして、アンサンブルを重視した音楽がやりたかった。出たとこ勝負のジャム・セッションみたいな演奏じゃろくなものはできないからな」。そう、マイルスは、ギルとのコラボレーションで、ジャズを芸術の域に引き上げたのだ。この『Miles Ahead』の成果がそれを物語る。
「相当リハーサルを積んだから、音楽的に満足のいくものが表現できた。ただし、どの曲でもソロ・スペースが少なかった。ライブで聴く音楽としては、物足りなかったかもしれない」とギル。でも、その少ないソロ・スペースをマイルスのペットが闊歩する。とにかく、マイルスのペットが格好良く、優しくクールに響き渡る。マイルスにとっては満足いく出来ではなかっただろうか。それほど、この『Miles Ahead』でのマイルスのペットは充実している。
いろいろな評価がなされるこの『Miles Ahead』であるが、僕は、マイルス・デイヴィスとギル・エバンスとのコラボレーション四部作の中で、この『Miles Ahead』が一番のお気に入り。次いで『Porgy And Bess』『Quiet Nights』と続き、残念ながら、巷で一番評判の高い『Sketches Of Spain』は、僕にとっては一番CDプレイヤーのトレイに載る回数が少ない。
昔々、ジャズ者初心者の頃より、『Sketches Of Spain』って、なんだか人工的な雰囲気がするんだよな〜。無理してアレンジしてまとめたような「ぎこちなさ」がどうも好きになれない。
ちなみに、『Miles Ahead』のジャケット・デザインは写真のように2種類ある。オリジナルは左のジャケット。しかし、マイルスはこのジャケット・デザインを見て「ご立腹」して一言、「俺のアルバムのジャケットに白人の女の写真を載せるな」。黒人として誇り高いマイルスの面目躍如。結局、なんの捻りもないマイルスの写真が載った、訂正後のジャケットが右のジャケット。
僕が馴染み深いのは、左の白人女性のジャケット。僕がジャズ者初心者の頃、日本では、この『Miles Ahead』は、オリジナルの白人女性の写真のジャケットで販売されていた。さすが、オリジナル至上主義の日本のレコード会社の仕業である。よくまあマイルスに知れなかったことだ。知れていたら、きっとマイルスは怒っていただろうなあ。いやまてよ、日本のジャズファンに一目置いていたマイルスだから、スルーしたかな。「日本のジャズファンには困ったものだ」と苦笑いしつつ、ブツブツと呟きながら・・・(笑)。
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