« 颯爽と疾走する「バリサク」 | トップページ | この売り方はないやろ〜、と思う »

2010年6月 9日 (水曜日)

昔々、僕の「初マイルス」である

マイルス・デイヴィスは、僕の最高のお気に入り。ジャズ者初心者駆け出しの頃から、マイルスだけは別格であった。よって、ジャズ者を志した、駆け出しの初心者の頃、早々にマイルスのアルバムに手を出している。

一番最初の手を出したマイルスは、実は『Circle in the Round』というLP2枚組の未発表曲集。当時、駆け出し初心者の僕は、当然、未発表曲集がなんであるか、全く判らない。当然、一通り聴いても、さっぱり「判らない」(笑)。これはいかん、とジャズ盤紹介本を買いに走り、どうも、この『Circle in the Round』は推薦盤でないことが、なんとなく理解する(アルバム名が見当たらなかっただけだけど・笑)。

このままだとマイルスが嫌いになりそうなので、早々に、ジャズ盤紹介本を参考に、アルバム・ジャケットのイメージだけで選んだアルバムが『'Round About Midnight』(写真左)。直感的に、このアルバム・ジャケットが格好良いと感じ、即買いした。マイルスの正式盤としては、僕の「初マイルス」である。

このアルバムについては、もう色々なところで語られ尽くされているので、ここでは細かくは言わない。一言で言うと、冒頭、セロニアス・モンクの名曲であり、タイトル曲である「'Round About Midnight」に「とどめ」を刺す。

前奏でのマイルスの切り裂くような、鋭くエッジの立ったミュート・トランペット。最初の音から、ピーンとテンションが張る。都会の深夜の静寂に、切り込むような鋭いマイルスのミュート。ハードボイルドである。そして、ファンファーレの様なハーモニーの後、滑るように出てくるコルトレーンのテナー。実にスリリングである。音の魔術師、ギル・エバンスのアレンジとのことだが、これだけ完璧に演奏されると、いや〜素晴らしい。

アルバム全体を見渡すと、プレスティッジ4部作とは違って、しっかりとリハーサルを積んだ様子が良く判る演奏内容である。全編に渡って、コルトレーンが吹きまくっているが、なかなかの健闘。
 

Round_about_midnight

 
プレスティッジ4部作では、ところどころ、ズッコケているコルトレーンが、このアルバムでは、なんとか持ちこたえている。グループサウンズとしても良くまとまっており、やはり、大手レーベル、コロンビアからのリリース、マイルスをはじめ、メンバー全員、気合いが入っている。

吹きまくるコルトレーンと、少ない音、選ばれた音、比較的短いフレーズを「ププッ」と吹いて、瞬時に「きめる」マイルスとの対比。圧倒的にマイルスの存在感の方が上回る。ジャズのインプロビゼーションは、吹きまくるだけでは無い、音数の多さでは無い、ということを身を持って示してくれる、我らが帝王マイルス。吹きまくるビ・バップはもう古い、とバッサリ切り捨て、新しい響きのハードバップを提示する。ジャズ界のリーダー、マイルスの面目躍如である。

コロコロと右手のシングルトーンで攻めるガーランドのピアノも美しく、シンプルなビートのみで、ガッチリとマイルス御大をサポートし、ついでにコルトレーンを鼓舞する、フィリージョーのドラムとチェンバースのベース。吹きまくるコルトレーン以外は、皆、シンプル。音数少なく、シンプルな展開で、表現したいことを最大限に表現する。実に「クール」なハードバップである。

この『'Round About Midnight』の音は、当時のジャズ界の中で、傑出したハードバップ・ジャズである。圧倒的に素晴らしい、孤高のハードバップ。他のハードバップ演奏とは、明らかに一線を画した、ハードボイルドで、ストイックな演奏。

このアルバム、マイルスの諸作の中で、かなりハードボイルドで、ストイックな内容なので、ジャズ者初心者駆け出しの方には、ちょっと早いかな、とも思います。また、お気に入りの女性の前で、このアルバムをかけてはいけません。あまりにハードボイルドで、ストイックな内容で、ロマンチックな面は皆無。そして、マイルスのミュートは切れ味抜群。どう考えても、女性と二人でシッポリと聴くアルバムではありません(笑)。

夜に男一人で、バーボンのロックを傾けながら、マイルスの切り裂くような、鋭くエッジの立ったミュート・トランペットに切られまくられながら、ストイックにハードボイルドにジャズを聴く、そんなアルバムですね。 
 
 
 
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。 
 

« 颯爽と疾走する「バリサク」 | トップページ | この売り方はないやろ〜、と思う »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 昔々、僕の「初マイルス」である:

« 颯爽と疾走する「バリサク」 | トップページ | この売り方はないやろ〜、と思う »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  
2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

カテゴリー