パット・メセニーの「長年の相棒」
6月24日のブログ(左をクリック)で、パット・メセニーの『Orchestrion』について語った訳だが、このアルバムのパットのソロを聴くにつけ、パット・メセニー・グループ(以下PMGと略)の音世界って、やっぱり、パットの音の個性によるところが大きいんやなあ、ということに改めて感心したした次第。
PMGの音世界は一言で言うと「フォーキーな、アメリカン・ルーツ・ミュージック的な音をグループサウンドのベースに据えて、実に叙情的で郷愁を感じる、力強さとセンチメンタリズムを併せ持ったサウンド」とでも表現したら良いか。実感していただくには実際のアルバムを聴いていただくしかないが、セカンド・アルバム『Watercolors』辺りがお勧めかなあ。
この『Watercolors』で、そのPMGのグループ・サウンドの要となる「キーボード」を演奏するのが、PMGの盟友「Lyle Mays(ライル・メイズ)」。このセカンド・リーダー作で、運命の出会いを果たしている。PMGのサウンドの基本である、叙情的な郷愁部分を大部分、キーボードに委ねて、パットは、自在にギター・サウンドを操れるようになった。
さて、改めて、ライル・メイズと言えば、言わずと知れたパット・メセニー音楽の重要パートナー。PMGには欠かせない存在である。どれだけPMGにとって必要不可欠な存在なのか。それは、ライル・メイズのファーストリーダーアルバム『Lyle Mays』(写真左)を聴けば直ぐに理解出来る。
冒頭の「Highland Aire」を聴けば、まるでPMGのアルバムを聴いているかのような錯覚に陥ります。出だしから、PMG独特のフォーキーでワールドミュージック的な響きに「ニンマリ」。それだけ、ライル・メイズのキーボードの音が、PMGの音の決め手になっているということですね。
ビートの面でも変幻自在で、このビートの「チェンジ・オブ・ペース」も、PMGの十八番ですね。ナナ・ヴァスコンセロスのパーカッションが実によく効いている。ナナのパーカッションの音も含めて、この1曲目の「Highland Aire」を聴けば、ECM時代のPMGの音を強く感じる。
しかし、3曲目の「Slink」をじっくり聴けば、ピアノのインプロビゼーションの部分は意外とコンテンポラリーな、正統派ジャズの音の感触を踏襲していて、ライル・メイズの演奏の基本がしっかりと伝統に根ざしていることが感じられます。ライル・メイズを単に「フュージョン世代のキーボード使い」と誤解する人がいますがとんでもない。ライル・メイズのピアノは正統派です。
5曲目「Northern Lights」から「Invocation」〜「Ascent」と3曲メドレーで続く「アラスカ組曲」。自然の音をジャズの演奏に置き換えたような、これぞ「ネイチャー・ジャズ」と呼んで良い、実に視覚的なイメージが湧いてきて、ライル・メイズのセンスに心底感心します。PMGの音世界の中でも良く聴くことのできる、この「自然の音」的な響きは、ライル・メイズによるところが大きいんですね。
2曲目の「Teiko」のどことなく和風・中国風なサウンドが全面に出てくるミステリアスな展開も面白く、ライル・メイズのピアノとシンセがひたすら美しく響く、ラストの「Close To Home」。音楽的なセンスも多角的で、ライル・メイズの音世界の多面性を感じる事ができます。良いアルバムです。
このライル・メイズの初リーダー作を聴いていて、ふと、ウェザー・リポートのキーボード奏者ジョー・ザビヌルを思い出した。ザビヌルのキーボードの音は緻密に準備された「人工的なポリフォニック・シンセの音」。ライル・メイズのキーボードの音は楽器の響きを自然に活かした「アコースティックで強く繊細なピアノの音」。ライル・メイズのシンセサイザーの音は、アコースティック・ピアノの音を惹き立たせる為にある。
ライル・メイズのキーボードの基本はアコースティック・ピアノである、ということをこの初リーダーアルバムを聴いて再認識した次第。やはり、基本をしっかり押さえているキーボーティストは息が長い。
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