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2010年6月22日 (火曜日)

マッコイの優れた「企画モノ」

昨日に引き続き、マッコイ・タイナーのアルバム紹介を「もう一丁」いきたいと思います。コルトレーン一派というだけで、天の邪鬼的に避けていたマッコイ・タイナーではあるが、ジャズ喫茶でマッコイのアルバムを聴くにつけ、マッコイのガーンゴーン、パラパラパラというハンマー打法に加えて、ピアノの「シーツ・オブ・サウンド」奏法が意外と気に入り始めていた1970年代の終わり。

1980年に入って、リリースされたこのアルバムは、実に思い出深い。そのアルバム名は『Quartet 4x4』(写真左)。1980年3月の3, 5, 6 & 29日の4つのカルテットのセッションを集めたもの。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p), Freddie Hubbard (tp), John Abercrombie (g), Bobby Hutcherson (vb), Arthur Blythe (as), Cecil McBee (b), Al Foster (ds)。

トランペットのフレディ・ハバード、ギターのジョン・アバ−クロンビー、ヴァイヴのボビー・ハッチャーソン、アルトサックスのアーサー・ブライスという4人が、それぞれフロントとして加わった、4種類の4重奏団が演奏するので「4x4」。これがなかなか面白い。

一般的には「トッピングで、それぞれ味が変わる」ということだが、それは表面上のこと。4書類の4重奏団それぞれの揺るぎのない素晴らしさを発揮しているのが、リーダーのマッコイ・タイナーとベースのセシル・マクビー、ドラムのアル・フォスターのリズム・セクション。当時のジャズ界において、突出した先進性を持ったリズム・セクションの一つだったということがこのアルバムを聴いて良く判る。メンバーを固定した、パーマネントなピアノ・トリオとして活動しなかったことが実に惜しい。

リーダーのマッコイのピアノは唯我独尊、孤高のピアノである。コルトレーン4重奏団時代のガーンゴーン、パラパラパラというハンマー打法に加えて、ピアノの「シーツ・オブ・サウンド」奏法で、疾走しメリハリの効いた、実に男性的なタッチで、「着いてくるなら着いてこい」ってな感じで、グイグイと引っ張っていく。フロントのゲスト・ミュージシャンの存在など微塵もない、まったく気にする様子も無く、まったく迎合することもない。ガンガンに飛ばしまくる重戦車のようなマッコイのピアノ。

そのピアノをガッチリ支えるのが、歌うように粘るビートと紡ぎ出していくセシル・マクビーのベース。このマクビーのベースは驚嘆に値する。こんなに歌うようにベースのフレーズを弾きまくるマクビー。改めて凄いと感心することしきり。
 

Mccoy_tyner_4x4

 
そして、アル・フォスターのドラム。スインギーな従来からのビートとは全く正反対の、シンプルでストレートなポリリズムと粘りのあるビートの供給。コルトレーンのフレーズをドラムで叩き出した様な、真っ直ぐなビート。今の耳にも新しく、驚嘆に値するポリリズム。

こんなに凄いリズム・セクションをバックにしているのだ。誰がフロントを張ったって、素晴らしいインプロビゼーションを展開しまくるに決まっている。

個々のフロントについてコメントすると、フレディ・ハバードのペットは、コルトレーンの様なフレーズを繰り出す繰り出す。確かに1980年当時、コルトレーンの様な高速シーツ・オブ・サウンドなフレーズを吹きまくることの出来るペット奏者は、フレディ・ハバード以外に見当たらなかったかと思う。しかし、ハバードはコルトレーンとリアルタイムで接したミュージシャン。あまりにコルトレーンの様にペットを吹きまくるので新しさは無い。抜群に上手いのだが、コルトレーン4重奏団の焼き直し的な雰囲気に終始していて、ワクワク感は少ない。

しかし、次の4重奏団ユニット、ギターのジョン・アバ−クロンビーをフロントにした4重奏団の演奏は、実に新しい雰囲気に満ちている。決して、シーツ・オブ・サウンドに走らない、決して、コルトレーンのコピーに走らないが、音を厳選してモーダルにギターを響かせるジョン・アバークロンビーは、実にコルトレーン的。でも、決して、コルトレーンの影はつきまとわない。コルトレーンのフレーズを自家薬籠中のものとして、ジョン・アバークロンビーの個性として、実に先鋭的なジャズ・ギターを聴かせてくれる。

次のボビー・ハッチャーソンのバイブも良い。モード・ジャズ時代の代表的ミュージシャンの一人であった、ボビー・ハッチャーソンである。このアルバムでは、実に誠実に、モード・ジャズの真髄を聴かせてくれている。美しいことこの上無し。そして、ラストのアーサー・ブライスのアルトは、コルトレーンの様に吹きながらも、そのフレーズにブライス独自の個性が輝いていて、これはこれで、これまた聴き応えバッチリである。 
 
いわゆる企画モノのアルバムですが、どうしてどうして、なかなか内容のある良いアルバムです。LP時代は2枚組のアルバムだったので、高くて手に入りませんでした。僕の隠れ家的な音楽喫茶で幾度か聴かせて貰い、FM放送で断片的にオンエアされる演奏を、丁寧にエアチェックし、カセットに編集して楽しんだことを昨日のことの様に覚えています(笑)。今では、CD1枚にまとまって、US盤では、デジタル・リマスターされていながら、なんと1300円前後で手に入る様になりました。う〜ん、良い時代になりましたねえ。   
 
 
 
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