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2010年6月28日 (月曜日)

日本女子のアルト有望株である

日本ジャズ界では、このところ、女子の活躍が目覚ましい。というか、日本の若手ジャズ・ミュージシャンのほとんどが「女子」。今の日本ジャズ界は「女子」中心に回っている。

今回、久々に有望株に出会った。その名は「寺久保エレナ」。現役の女子高生である。雑誌やネットでの紹介文の触れ込みとしては「山下洋輔、渡辺貞夫、日野皓正など、数々の巨匠との共演を誇る話題の天才少女」。その共演の演奏を聴いたことが無いので、なんとも言えないのだが、今回デビュー作の『North Bird』(写真左)を聴いて、その凄さの一端を垣間見た気がしている。

この寺久保エレナのデビュー作『North Bird』は、その共演ミュージシャンが凄い。ケニー・バロン(p), クリスチャン・マクブライド(b), ピーター・バーンスタイン(g), リー・ピアソン(ds)。伴奏の名手バロンに、ファースト・コール・ベーシストのマクブライド。多彩なスタイルを弾きこなすギターのバーンスタインに、堅実なサポートが売りのリー・ピアソンのドラム。

バックに不足は無い。このゴージャズなバックを背に、寺久保エレナはアルトを吹きまくる。とにかく、寺久保エレナのアルトは上手い。早いパッセージ中心の曲、バラード曲、ミッドテンポなジャジーな曲、どんな曲でも吹きこなす器用さもさることながら、そのアルトの音色が太くてブリリアントで、それはもう正統派は輝かしい音なのだ。

そう、寺久保エレナのアルトは上手い。そのテクニックは現役女子高校生として、かなり傑出したものである。決して大袈裟では無い。どこでどうなってそうなったのかは判らないが、彼女のアルトは正統派で、かつ凄まじいテクニックである。テクニックだけ捉えれば、他に類を見ない、奇跡的な彼女のアルトである。

とにかく、どんな曲でも吹きこなす器用さが素晴らしい。このデビュー作、スタジオ録音なので仕方が無いのだが、サックス吹きに必要な躍動感とアドリブ感が、ちょっと抑制気味ではあるが、確かにこのアルバムでの寺久保エレナのアルトは「上手い」。そう「上手い」んだよな。
 

Terakubo_northbird

 
器用で上手い。これだけではジャズとして、今後しんどいんだが、まだまだデビュー作である。器用で上手い。それも「とてつも無く上手い」。それで十分である。バック・ミュージシャンの選定についても、レコード会社とプロデューサーのセットアップに、そのまま乗っかった感がある。まあ寺久保エレナは現役高校生、デビュー作でもあり、レコード会社とプロデューサーの意向に従わざるを得なかったのだろうし、彼女もそれを判って「乗っかった」のだろう。

アルバム全編を聴き通して、「寺久保エレナのアルトは素晴らしく上手い」以上に、何かを感じたかと言えばそうでもない、というのが正直なところ。でも、その「上手さ」は通常の「上手さ」のレベルを遙かに超えた、超一級品としての「上手さ」である。若干18歳そこそこの女子がここまでアルトサックスを吹き上げることが出来るなんて、最初聴いた時には理解出来なかった。

この寺久保エレナの『North Bird』は、彼女のデビュー作。デビュー作だけに、レコード会社とプロデューサーのセットアップに乗っからざるを得なかったんだろう。「激しく上手い」アルト・サックス以上に、何かを感じたかと言えば「そうでは無かった」。でも、これって、彼女のアルトは凡百であると言っているのでは無い。このアルトの上手さは尋常では無い。それが証拠に、今から彼女の次作が凄く楽しみになっている。

寺久保エレナのアルトは正統派。そして、凄まじいテクニック。この正統派かつハイ・テクニックの寺久保エレナのアルトが、その独特の個性を獲得するのいつになるのか。早くて次作、セカンドリーダー作かもしれない。次作は、自らが選んだリズム・セクションを従えて、ワンホーン作を作って欲しい。その条件下で、寺久保エレナの「本当の個性」が露わになるのでは無いか、と期待している。

寺久保エレナのアルトは素晴らしく上手い。それだけでも聴き応えがあるデビュー作の『North Bird』。そこに彼女の「考える個性」が反映されたら、どんなアルバムに仕上がるんだろう。そして、ジャズ・ミュージシャンには不可欠な「ライブ」での彼女の演奏はどうなんだろう。さすがに、日本女子のアルト有望株である。これからが実に楽しみな若手女子有望株。これから暫く目が離せない、日本若手ミュージシャンの一人である。 
 
 
 
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コメント

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