伝統的で真っ直ぐなジャズギター
この人のギターの響きは、なかなかユニーク。ジョンスコやジョンアバの様に「素敵に捻れている」訳では無い。音的には「伝統的」。しかし、その音は「真っ直ぐ」。ストレートに音を伸ばして、ビブラートやチョーキング、捻れは全く無い。
一言で言うと、伝統的なジャズギターの音色はしているし、奏法を踏襲してはいるが、音は「真っ直ぐ」ストレート。テナーでいうと、ちょっとコルトレーンの音の傾向に似ている。従来のジャズの様に、粘り着くようなジャジーな響きや、コテコテなファンキーな響きを出来る限り排除して、ストレートな響きで、シンプルにジャズを演奏する。そんな「伝統的で真っ直ぐなジャズギター」。
その音の主は、パット・マルティーノ(Pat Martino)。1944年8月生まれ。米国ペンシルヴァニア洲フィラデルフィア出身のジャズ・ギタリスト。彼をコルトレーンの様な「ジャズ・ギターのパイオニア」とする一部の熱狂なファンが存在する。
コルトレーンの「シーツ・オブ・サウンド」の様に、空間を埋め尽くすように音をギッシリと散りばめる奏法が特徴。巷では「マシンガン奏法」や「空間恐怖症」などと呼ばれることも少なくない。ちなみに彼は、ウェス・モンゴメリーやジョニー・スミス、ジョン・コルトレーンからの影響をカミングアウトしている。納得納得。
このパット・マルティーノのアルバムの中で、良く聴くアルバムの一枚が『Exit』(写真左)。1976年の作品。ギター・フリークの中では「超絶ギター・テクが聴ける歴史的名演奏」とされるが、僕は、後半のスタンダード演奏の3曲をこよなく愛している。
その3曲とは「Days of Wine and Roses」「Blue Bossa」「I Remember Clifford」。パット・マルティーノのシャープでバカテクなギターで奏でるスタンダード曲は絶品。ほのかな色気も感じる、実に絶品な演奏である。
マルティーノのストレートな響きでシンプルにジャズを演奏するギターワークは、実に「無機質」に響く。粘り着くようなジャジーな響きや、コテコテなファンキーな響きを出来る限り排除した、この「無機質」な音に「ほとばしる熱気」を感じるのだから、マルティーノのギターは不思議。テンション溢れる、「シーツ・オブ・サウンド」の様に、空間を埋め尽くすように音をギッシリと散りばめる奏法がマルティーノの「熱気」の肝。
バックの好演も見逃せない。音の切れ味が良く、エッジの立った響きが印象的なギル・ゴールドスタインのアコースティック・ピアノ。リチャード・デイヴィスの重心低いベースはシッカリとバンドのビートを支え、ビリー・ハートのドラムも堅調かつ柔軟。
逆に、前半の自作の3曲「Exit」「Come Sunday」「Three Base Hit」については、アレンジや展開をリリース当時の1976年の流行に合わせている分、マルティーノの「マシンガン奏法」ギターはバッチリなのですが、今の耳にはちょいとレトロに響いてしまうのは「ご愛嬌」。後半のスタンダード3曲の引き立て役になっているので、これはこれで良し、ですかね〜(笑)。
「孤高のギタリスト」と呼ばれるに相応しい、唯一無二、フォロワーの存在を許さない、パット・マルティーノの独特の音世界が、このアルバムにギッシリとつまっています。パット・マルティーノ入門盤として、実に良い内容の佳作だと思います。
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