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2010年5月20日 (木曜日)

矢野沙織の新譜、良いぞ〜

このところ、体調が優れなかったり、ハンク・ジョーンズが亡くなったりで、なんだか気分が乗らない。今日などは朝から天気が悪く、雨雨雨。どっと気が滅入る一日。こんな時は、パッと気合いが入る、コッテコテのファンキー・ジャズが聴きたくなる。そして、元気を貰いたくなる。

ちょっと遅くなったが、矢野沙織の新譜である。タイトルは『BEBOP at the SAVOY』(写真左)。彼女の通算9枚目のリーダーアルバムになる。ちなみにパーソネルは、Saori Yano (as), Randy Johnston (g), Pat Bianchi (org), Jim Rotondi (tp), Fukushi Tainaka (ds)。2009年11月10〜11日、N.Y.シアー・サウンド・スタジオにてのレコーディングだそうである。

タイトルが『BEBOP at the SAVOY』なので、今度はバリバリのビ・バップか〜と思いきや、パーソネルを眺めると、オルガンとギターが入って、フロントに矢野沙織のアルトとジム・ロトンディのペットとくれば、これはファンキー・ジャズじゃないの、と思って、さあ1曲目の「The Kicker」、なんとJoe Hendersonの名曲ではないか〜。

矢野沙織のアルトが実に映える。更にグレードアップしたブロウに、なんだか嬉しくなる。今回のこのアルバムの矢野のブロウには、しっかりと矢野沙織としての個性が宿りつつある。今回の矢野のブロウは、彼女のブロウをワンフレーズ聴くだけで、それと判る、しっかりとした個性を身につけている。う〜ん、またまた上手くなったなあ、進歩したなあ。この1曲目の「The Kicker」の矢野沙織のブロウを聴くだけで、本当に嬉しくなってしまう。しかも、コッテコテのファンキー・ジャズ調。もうたまりません(笑)。

フロントのもう一方を支えるジム・ロトンディのペットが、また良い。矢野沙織のアルトの、切れ込むようなエッジの立った「気っぷの良い」ブロウに相対して、ジム・ロトンディのペットは、丸くて切れ味の良い包み込むようなブロウ。矢野沙織のアルトと好対照のジム・ロトンディのペット。実にファンキーなフロントである。そこに、パット・ビアンキのオルガンが絡み、田井中福司のドラムがファンキーなビートを刻む。これはもう、頬も緩みっぱなしの、コッテコテのファンキー・ジャズである。

Bebop_savoy

以降、収録曲を並べてみると、

2. Sweet Cakes (Blue Mitchell)
3. Blues Walk (Lou Donaldson)
4. You'd Be So Nice to Come Home To (Cole Porter)
5. S' Wonderful (George Gershwin)
6. Lullaby of Birdland (G. Shearing-G. Weiss)
7. Olive Refractions (Norman Simmons)
8. Stardust (H. Carmichael-M. Parish)
9. Five Spot After Dark (Benny Golson)
10. How High the Moon (M. Lewis-N. Hamilton)

2曲目「Sweet Cakes」など、実に渋い選曲である。矢野のアルトも絶好調。しかも、真剣勝負的なブロウに、思わずニンマリ。3曲目は、いよいよ来ました、オルガン・ファンキー・ジャズです、ルー・ドナルドソンの「Blues Walk」。コッテコテなファンキー・ジャズですぜ。この1曲目〜3曲目で、もうファンキー・ジャズ大会で、頬、緩みっぱなし。ウハウハです(笑)。

4曲目「You'd Be So Nice to Come Home To」から、8曲目「Stardust」まで、大スタンダード大会なのですが、演奏の雰囲気はファンキー・ジャズ調。う〜ん、実に粋なアレンジに思わず聴き入るばかり。そして、来た来た、また来た「Five Spot After Dark」。ちょっとスローでファンキーな矢野沙織のブロウが「たまりません」。最初聴いた時は、ちょっとスロー過ぎはせんか、と、ちょっとした違和感を覚えたんですが、どうしてどうして。何回聴いても飽きません。アレンジの勝利でしょう。

ちなみに、ラストの11曲目のボーナストラックの「Laura Peacock ~太陽の船のテーマ」は蛇足でしょう。この曲だけ、コッテコテなファンキー・ジャズ調では無いので、最後の最後でズッコケてしまいます。TBS系の特別番組「吉村作治の太陽の船 復活」のテーマ曲なので、コマーシャル的に収録したかったのでしょうが、その前の10曲だけで、十分にこの『BEBOP at the SAVOY』は好盤なので、他のベスト盤への収録のストックとしてとっておくか、ダウンロードサイトへのシングル曲という扱いは出来なかったのでしょうか。曲自体、演奏自体は良い出来なので惜しいですね〜。『BEBOP at the SAVOY』というアルバムとしても惜しい。

ちょっと前に、矢野沙織のブログで「まだまだ周りの人々に助けられてばかりの未熟者」なんて弱気なコメントがありましたが、とんでもない。まだ20歳そこそこ。周りの人々に助けられて当たり前です。逆に、周りの人々に助けられて、これだけ自分の才能と努力を表現できるのは素晴らしい。しかも、これだけ吹ければ、ちょっとした天狗になっても仕方が無いところを、周りの人々に助けられている、ということを自ら認識している、矢野沙織の誠実な人格に感心します。

そう、この今回の新譜『BEBOP at the SAVOY』は、矢野沙織の誠実な人格もほんのり感じる、彼女の才能と努力の一里塚的な好盤だと思います。今回、獲得した個性をしっかりと維持し、焦ることなく、伸ばしていって欲しい。デビューアルバムから矢野沙織を聴いて来ましたが、今回も彼女の成長にニンマリすることが出来て、なんだか嬉しくなりました。 
 
 
 
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コメント

初めまして。私も大のジャズファンです。
アルトサックスやってる20歳(女)です。
矢野さんのブログを見た後すぐ、こちらのブログを発見し嬉しくなってコメントしました。
また遊びに来まーす♪

初めまして、 Megumi さん。松和のマスターです。

私も中学時代(40年位前)、ブラスバンドでアルト・サックスを
吹いていました。結構、一生懸命練習したくちで、今でも音は出せ
ますし、なんとか運指もOKです。ですので、アルト・サックスの、
いやサックス全般の演奏の難しさなどは、ある程度体験的に理解
出来るつもりでいます。

そんな背景もあって、ジャズでは、アルト・サックス奏者が結構気に
なりますね〜。そして、若手アルト奏者としては、矢野沙織さんを
デビューの頃から聴いています。10歳台のデビューでしたからね〜
なんだか心配で(笑)。でも、アルバムをリリースするごとに着実
に進歩していく彼女を見ていて、頼もしいやら、嬉しいやら・・・。

次のアルバムが今から楽しみです。一度ライブに足を運んでみたい
と思っているんですが、なかなか本業との折り合いがつかなくて。

なんとか彼女のライブを見てみたいですね〜。
 
 

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