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2010年5月25日 (火曜日)

ビル・エバンスとベースの関係

4月24日のブログ(左をクリック)に「ビル・エバンスとドラマーとの相性」と題して、ビル・エバンスとシェリー・マンとの初めての共演盤『Empathy』について語った。この『Empathy』というアルバムでは、エバンスとマンはまだまだ「ツーカー」の仲ではない。マンは、エバンスの独特の「間」の感覚がつかめないまま、手探り状態で合いの手を入れているようで、ちょっと「ちぐはぐ」、と書いた。

では、この「ちぐはぐ」となった原因は何か。私は、やはり、ベースのMonty Budwig(モンティ・パドウィック)だと思っています。それは、ビル・エバンスとシェリー・マンとの再会セッション『A Simple Matter of Conviction』(写真左)を聴けば良く判ります。

この『A Simple Matter of Conviction』のパーソネルは、ちなみに、Bill Evans (p) Eddie Gomez (b) Shelly Manne (ds)。1966年10月4日の録音になる。エバンスとして、2人目の「お気に入りベーシスト」となるEddie Gomez(エディ・ゴメス)との初のピアノ・トリオ盤でもある。

ベーシストが、モンティ・パドウィックからエディ・ゴメスに変わっただけで、ビル・エバンスとシェリー・マンの関係は一変する。というか、劇的な変化である。180度、コペルニクス的転回でとでも言おうか。エディ・ゴメスがベーシストを務めただけで、ビル・エバンスとシェリー・マンの関係が、実に円滑で柔軟なピアノ・トリオに・・・。

リズムという言葉がある。アクセントのある拍が周期的に繰り返されること。ビートという言葉がある。鼓動、拍子を意味する語。リズムは拍の繰り返し。ビートは鼓動。この違いがジャズでは大切になる。

ドラムは「叩く」ことしか出来ない「リズム」の楽器。「リズム」を担う役割が相当大きい楽器である。打楽器毎に音程はあるが、単一の音程しか出すことが出来ない。ドラムは「ビート」も出すことが出来るが、音の伸びが必要な「ビート」の供給は基本的にシンバルに限られる。

ベースは、弦を弾いて音を出す楽器なので、音の伸びが必要な「ビート」の供給に長けている。しかも、様々な音程が出せるので、ソロ楽器としての「旋律」も担うことができる。逆に、アクセントのある拍が周期的に繰り返される「リズム」の供給は苦手となる。
 

A_simple_matter

 
ピアノは、実に複雑で悩ましい楽器で、様々な音程が出せるので、ソロ楽器として「旋律」を担う役割が大きいが、鍵盤を通じて弦を叩いて音を出す構造上、「リズム」を供給することもできる。しかも、弦を叩いて音を出すので、音が伸びる。よって、音の伸びが必要な「ビート」も供給することができる、なんともはや、どっちつかずの位置づけに困る楽器である。

トリオという構成は、楽器3台で構成されるシンプルな構成故、この「旋律」「リズム」「ビート」というジャズとして必要な要素を、3台の楽器で上手く役割分担することが大切になる。より自由なインタープレイを望むなら、3台の楽器で、この「旋律」「リズム」「ビート」を相互補完しながら、役割を交互に分担することが求められる。

ということは、である。ピアノ・トリオとしては、ピアノとベースとドラムの3者が台頭の立場に立つことが重要になる。しかし、ドラムはどうやっても「旋律」を担えない。ということは、ドラムは、ドラムにとって唯一先頭切って担うことの出来る「リズム」の主担当となる必要がある。

逆にドラムに他の役割をあまり担わせてはいけない。つまり、ドラムが他に担うことのできる「ビート」をベースが主担当として担いつつ、ピアノの得意とする「旋律」に絡む力量がベースに期待されるのだ。そうすることによって、ピアノは主力を「旋律」に集中することが出来、必要となる時に、「ビート」を肩代わりし、「リズム」を肩代わりする。そうすることによって、ピアノ・トリオの演奏の幅が拡がり、柔軟性が増す。それが、ピアノ・トリオ3者対等なインタープレイを可能にする。

そういうことが、ビル・エバンスとシェリー・マンとの共演盤の2枚『Empathy』と『A Simple Matter of Conviction』の2枚を聴けば良く判ります。ピアノ・トリオ3者対等なインタープレイを可能にするには、如何にベーシストの力量と位置づけが重要になるかが・・・。「ビート」は絶対、次に「旋律」が絶対、リズムも十分供給出来る。「ビート」と「旋律」を人一倍供給することの出来るベーシストが絶対に必要なんですね。これがなかなか、いそうでいないから、エバンスも悩んだんですな。きっと。まあ、とにかく、聴いてみて下さい(笑)。

「ビル・エバンスとベースの関係」というより、「ビート」は絶対、次に「旋律」が絶対、リズムも十分供給出来る、というベーシストの力量。これが、エバンスが、ピアノ・トリオ3者対等なインタープレイを可能にする「キーワード」。単なるウォーキング・ベースの担い手、「ビート」の担い手だけでは駄目なんですね。 
 
 
 
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