1971年のキース・ジャレット
1971年当時のキース・ジャレットである。今では「スタンダーズ」と呼ばれるトリオを長年率いてきて、キースと言えば、スタンダード専門のピアノ・トリオ、加えて、時折、ソロ・ピアノという形に収まった感がある。が、デビュー当時、1960年代後半から1970年代前半は、とにかく、ジャズに収斂できる演奏パターンや音楽的要素はなんでも取り入れて演奏してしまう、という、とにかく「先鋭的」、俗っぽく言い換えると「やんちゃ」な演奏家だった。
とにかくなんでもやる、というか、当時の流行をごった煮の様に取り入れて、えいやっ、とモーダルなメインストリーム・ジャズにまとめ上げていくという、なんとも「力業的な」アルバムが多々残されている。今では「スタンダーズ」がメインになってしまったんで、キースの1960年代後半から1970年代前半の、キースのアルバム紹介になかなか顔を出さないアルバム群が話題になることは、ほとんど無くない。
しかし、キースの本質を知る上では、この辺の「隠れアルバム」群は絶対に聴かねばならない。僕は、今の「スタンダーズ」中心のキースの方は「特別な」ものと感じているし、「スタンダーズ」はキースの美しい面、つまり表面のみを写しているもので、キースの裏面、キースのアバンギャルドな面は「スタンダーズ」にはほとんど表現されていない。
この『Birth(誕生)』(写真左)というアルバムも、そんなキースの隠れた面を僕たちに教えてくれる、キースのアルバム紹介になかなか顔を出さないアルバム群の一枚である。そもそも、71年、キースがリーダーとして行った2つのセッションから録られたもので、同じセッションから作成されたアルバムは、『The Morning of a Star(流星)』および『El Judicio』というアルバム名でリリースされている。つまりは、1971年当時のキースを知るには、この『Birth』と『The Morning of a Star』および『El Judicio』の3枚をセットで聴くことがベスト。
この『Birth(誕生)』、アルバム的には、デューイレッドマン参加の最初の作品となる。つまりは、後の「アメリカン・カルテット」の発祥的なアルバムになる。長男誕生を記念してのタイトル曲、冒頭の「Birth」は、実にジャジーでメインストリーム的なバラード。静的なトーンの中で情感溢れる展開が潜んでいるところが実にグッとくる。キースのバラードセンスが煌めいている。
打って変わって、2曲目の「Mortgage on My Soul」は、ベースにファズをかけてオルガンのような音にした、ロック基調の、なかなかに格好良いビートが特徴。ここでは、なんとキースはソプラノ・サックスを吹いて、テナーのレッドマンとかけあっている。いやはや、いけいけどんどん、なんとも「力業的な」演奏である。が、これがまだ、キースの裏面、キースの本質のひとつでもあるのだ。キースって意外とアバンギャルドなんだなあ、と感心したりする。
ここまでは、なんとなく1971年当時のメインストリーム・ジャズとして「なかなか」と思うんだが、3曲目の「Spirit」以降、「Markings」「Forget Your Memories (And They'll Remember You)」「Remorse」とフリーでアバンギャルドな演奏が続く。これは普通のジャズ者の方々からすると、聴くのには、ちと「辛い」演奏になっている。
後のアメリカン・カルテットのフリーキーな演奏に通ずるものなんだが、さすがに、キースとデューイは初対面。なんだかとりとめのないフリーキーな演奏が延々と続く。部分的には「はっ」とする瞬間もあるんだがなあ。でも、このアバンギャルドな面がキースの音楽性の一面でもあるし、1971年当時は、まだまだ洗練されていない、凡作とでも評価されかねない演奏もあるのだ。「キースは一日にしてならず」である(笑)。
でも、このアルバムの価値は絶対にある。キースの裏面を如実に僕たちに教えてくれるし、冒頭の2曲は、1971年当時のジャズのトレンドを優れた演奏で表してくれていて、この冒頭の2曲は、1971年のキースの成果として十分に評価できるし、演奏的にも楽しめる。
でも、このアルバムは、ジャズのマニア、特に、キース者の「コレクターズ・アイテム」でしょう。ダウンロード・サイトで安価に購入できるとは言え、ジャズ者初心者の方々が手を出す代物ではないでしょうね。逆に、キース者を自認する方々には「必須アイテム」でしょう。少なくとも、1971年キースの『Birth』『The Morning of a Star』および『El Judicio』3部作は入手して、じっくりと聴かないといけませんぞ(笑)。しかし、このジャケット・デザイン、なんとかならんかったんかなあ(苦笑)。
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