ピアノ・トリオの代表的名盤・14
ピアノ・トリオの代表的名盤の第14回目である。強がっていても、まだまだハンク・ジョーンズの訃報のショックが癒えない松和のマスター。今回のピアノ・トリオの代表的名盤は、当然、ハンク・ジョーンズ中心に攻めてみたい。
ハンク・ジョーンズの優れたピアノ・トリオは数々あるが、やはり一番あちらこちらのジャズアルバム紹介本に挙げられる回数が一番多いのは、The Great Jazz Trio名義の諸作だろう。特に、必ずと言って良いほど挙げられるアルバムが『At the Village Vanguard』と『At the Village Vanguard Vol.2』。ハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウイリアムスのベテランジャズマンによるトリオ。
が、しかし、今回、ハンク・ジョーンズの訃報に接して、様々なブログでハンク・ジョーンズ追悼の意を中心としたコメントが多々アップされたが、この『At the Village Vanguard』シリーズ、評判が良いコメントと評判の良くないコメントが相半ば。う〜ん、判るような気がするなあ。
恐らく、トニー・ウイリアムスの「ど派手」なドラミングが好きなジャズ者の方々には、この『At the Village Vanguard』シリーズについては、概ね評判が良い。しかし、意外とハンク・ジョーンズのピアノの素晴らしさに言及しているコメントが少ないのが残念。
逆に『At the Village Vanguard』シリーズについて、あまり芳しいコメントをしていないジャズ者の方々は、ハンク・ジョーンズのピアノより、元マイルス5重奏団のトニーとロンにビ・バップ時代からの大ベテラン・ピアニストであるハンクが組んだという、ちょっと「アンマッチで」コマーシャルな話題を優先した、しかも、トニーの大向こうを張った「ど派手」なドラミングと、アタッチメントを付けて電気ベースの様な音に増幅されたロンのベース音を全面に押し出した、いかにも、という感じの話題優先的なアルバムの内容を問題視している。
いや〜、皆さんの言うことはとても良く判る。やはり、当たり前にリーダーのハンク・ジョーンズのピアノが最優先とした時、この『At the Village Vanguard』シリーズの2枚は、やはり出来が良いアルバムとは言えない。トニーの斬新的な「怒濤のデジタル的」なバップ・ドラミングは「ど派手」で話題性はあるが、決して、リーダーのハンク・ジョーンズのピアノをしっかりと支え引き立てるバップ・ドラミングとは言えない。誤解を恐れずに言うと、これだけ我が儘に全面に出たバップ・ドラミングはあり得ない。トニーのリズムセクションとしてのセンスを疑ってしまう。
僕は、このハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウイリアムスのThe Great Jazz Trioは、トニーにとっての「ビ・バップ」的な、「ハード・バップ」的なドラミングの習得の場、鍛錬の場だったような気がしている。トニーがデビューした時、ジャズ界の最先端は「モード」。トニーはモードの申し子的なドラミングが素晴らしかったが、トニーはビ・バップ的な、ハード・バップ的なドラミングが最先端の時代は、ジャズ界に存在していなかった。
じゃあ『At the Village Vanguard』シリーズは、ハンク・ジョーンズとして、ピアノ・トリオの代表的名盤となり得ないかと言えば、そうではなかった。1998年11月、唐突に登場したThe Great Jazz TrioのVillage Vanguardでのライヴ盤、その名も『At The Village Vanguard Again』(写真左)。そう、あの傑作ライヴ『At The Village Vanguard』と『同 Vol.2』の未発表テイクで、今までお蔵入りになっていたもの。
これが、リーダーのハンク・ジョーンズのピアノが最優先とした時、ハンク・ジョーンズとして、ピアノ・トリオの代表的名盤の一枚として挙げに足る、ハンク・ジョーンズのピアノとして優れた内容の『At The Village Vanguard Again』。
まず、選曲が良い。以下を見て頂きたい。ジャズ・スタンダード曲がズラリ。
1. Hi-Fly
2. Sophisticated Lady
3. Softly as in a Morning Sunrise
4. Wave
5. My Funny Valentine
ハンクのピアノが実に良い出来です。そして、トニーのドラムとロンのベースは、先にリリースされた『At The Village Vanguard』と『同 Vol.2』と比べれば地味なんですが、演奏の出来は素晴らしいですよ。ハンクをリーダーとしてThe Great Jazz Trioを評価するならば、このアルバムのトニーとロンは実に素晴らしいバッキングを提供していると言えます。この実直なドラムとベースのバッキングを得て、ハンクのピアノは実にリラックスして、実に弾き易い雰囲気で、味のある小粋なインプロビゼーションを聴かせてくれます。
私としては、ハンクをリーダーとしてThe Great Jazz Trioを評価するならば、『At The Village Vanguard』と『同 Vol.2』は、あまり良い内容とは思いません。しかし、1998年11月、唐突に登場した『At The Village Vanguard Again』は違います。ハンクをリーダーとしてThe Great Jazz Trioを評価するならば、この『At The Village Vanguard Again』は、ハンクのピアノ・トリオの代表的名盤として、十分評価できる内容だと思います。
でも、この音源がお蔵入りとはなあ。当時のレコード会社と担当レーベルの感性を疑いたくなりますね〜。でも、1998年11月、唐突に登場してくれて良かった。『At The Village Vanguard Again』の存在は、『At The Village Vanguard』と『同 Vol.2』も含めて、『At the Village Vanguard』シリーズについては、ハンク、ロン、トニーのThe Great Jazz Trioの名盤としても、僕は評価することが出来る様になりました。目出度し目出度し(笑)。
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