ピアノ・トリオの代表的名盤・13
一昨日に続いて「ピアノ・トリオの代表的名盤」である。たまたま、上品で気品溢れる聴き易いピアノ・トリオのアルバムは無いか〜、と探していたら、久々にこのアルバムに至って、久しぶりに聴いたら、やっぱり「良いものはいつ聴いても良いねえ」ということになったので、今日は、一昨日に続いて「ピアノ・トリオの代表的名盤」である(笑)。
その「このアルバム」とは、アル・ヘイグ(Al Haig)の『Invitation』(写真左)。アル・ヘイグの1974年の録音である。アル・ヘイグ、1924年7月22日ニュージャージー州生まれ、1982年没。スイング期とバド・パウエルの過渡期的スタイルの名ピアニスト。言い得て妙ですね。決して、ビ・パップの様に先鋭的でテクニック優先では無い、といって、スイングの様にポップスに迎合した聴き易さのみを追求する訳でも無い。
アル・ヘイグのピアノは、優雅で気品が芳しく香るタッチと分厚い和音を駆使しつつ、典雅でゴージャズな右手のインプロビゼーションが特徴。スイング・ピアノの様に俗っぽく無い。そして、ビ・バップ・ピアノほどテクニック優先なテクニカルな響きは無い。それでいて、気持ち良くコロコロと回る右手、タイミング良くビートを供給する左手。アル・ヘイグのピアノは、ブルージーではあるが決して案漠な暗さは無く、少し軽やかで、乾いた典雅な展開が素敵である。
そんなアル・ヘイグのアルバムであるが、ビ・バップ時代にある程度の活躍とアルバムを残したが、1965年『Al Haig Today!』以降、暫く消息が途絶える。そして、73年頃から再びヴィレッジ・ヴァンガードのクラブで活動を再開し、1974年1月に録音したのが、本作『Invitation』である。アル・ヘイグ50歳の時である。
ちなみにパーソネルは、Al Haig (p) Gilbert "Bibi" Rovere (b) Kenny Clarke (ds)。アル・ヘイグは50歳、ドラムのケニー・クラークは60歳。ベースのギルバート・ローバーは36歳。アル・ヘイグとしては、年齢的に円熟期の演奏。ドラムのケニー・クラークとしては「枯れの境地」、逆にベースのローバーの音が若々しい。この円熟期のピアノ、程良く枯れたドラム、若々しいウォーキング・ベース。この3者3様の組合せが、このアルバムの「奇跡」を生み出している。
とにかく、アル・ヘイグのピアノは、端正でかつ典雅。アースティスティックな芳しき香りを振りまきつつ、ビ・バップライクな回る右手と品位漂う左手のビート。アル・ヘイグのピアノは、とにかく端正で聴き易い。そして、ゴージャスで流麗。聴き易いことこの上なし。決して破綻することの無いアドリブ。品行方正なピアノ。ジャズにアウトローを求める向きには、絶対に相受け入れられない典雅なピアノ。どちらかというと、ハンク・ジョーンズに通ずるものがある。
そんなアル・ヘイグのピアノの特徴が実に判り易く詰め込まれたアルバムが、この1974年の録音された『Invitation』である。曲毎のアレンジは、正統派ピアノ・トリオ・ジャズというもの。ピアノが主役、旋律を奏で、最初のソロ・アドリブをかましたあと、ベース、ドラムと軽いソロが続く。そして、皆でテーマに戻り、大団円なエンディング。つまりは、スイング時代から定番のジャズ曲の展開パターンを全曲踏襲しているところが、このアルバムの奇跡。何度も言うが、録音年は1974年。フュージョン・ジャズ、真っ盛りの環境で、この正統派な味わいのピアノ・トリオ・アルバムである。
どの曲も、とにかく、ピアノのアル・ヘイグが印象的。アル・ヘイグがこんなに端正で、優雅で気品が芳しく香るタッチと分厚い和音を駆使しつつ、典雅でゴージャズな右手のインプロビゼーションが特徴のジャズ・ピアニストとは思わなかった。決して、聴き手に迎合していない、当時、自らが表現したいものを淡々と表現しただけの、全く商売っ気の無いアルバム。『Invitation』とは、そんなピアノ・トリオ・アルバムである。
絵に描いた様なピアノ・トリオ・アルバムである。演奏曲毎の展開も、ピアノが主役、旋律を奏で、最初のソロ・アドリブをかましたあと、ベース、ドラムと軽いソロが続く。そして、皆でテーマに戻り、大団円なエンディング。ピアノ・トリオの超定番的な展開を全て踏襲している。そして、何より、聴き手に迎合しない、自らが信じるアドリブ展開。実に潔い内容である。ジャズ者初心者にお勧めなんですが、このところ廃盤状態が続いています。ジャズ喫茶などでリクエストしてでも、一度は聴いて頂きたい、ジャズ・ピアノ・トリオの傑作です。
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