マイルス・デイヴィス『Relaxin'』
プレスティッジのマラソン・セッション4部作の最後を飾るのは『Relaxin'』(写真左)。現代絵画キュビズムを思わせる「横たわる女性画」が印象的なジャケット・デザイン。
このアルバムには、レコーディングでの会話が断片的に収録されており、プレスティッジのマラソン・セッションの臨場感が感じられるところが最大の特徴。
冒頭の「If I Were A Bell」では、マイルスの「かすれ声」から始まる。「先に演奏して、後から曲を教えるよ」。指を鳴らしてのカウントが格好良い。そして、次の「You're My Everything」では、これまた最初に打ち合わせのような会話が入り、続いてガーランドの美しいシングルトーンのイントロが始まるが、イントロの途中で、マイルスが口笛を吹いて演奏を中断し、ブロックコード中心のイントロに変更させる。このやりとりが、これまた臨場感を強く感じさせて実に良い雰囲気だ。
ちなみに「You're My Everything」のイントロで、マイルスがガーランドに弾き分けさせる、このシングルトーンとブロックコードのニュアンスの違いに、僕は「ジャズ」の面白さを感じる。弾き方ひとつでこれだけニュアンスが変わるとは思わなかった、ジャズ者初心者の頃、妙に感じ入ったものだ。
これだけ弾き方ひとつでニュアンスをガラッと変えてしまうガーランド。実は、この『Relaxin'』でのガーランドのピアノは絶好調である。バラード良し、ハイテンポの曲も良し。右手のシングルトーンは良く回るし、左のブロックコードの伴奏を入れるタイミングは絶妙で狂いが無い。
ガーランドのピアノが好調なほど、マイルスのペットも好調になる。「You're My Everything」のバラード演奏は絶妙。ガーランドの右手シングルトーンとマイルスの独特ハーマン・ミュートの絡みが美しい。ガーランドのピアノが好調なので、ミッドテンポからハイテンポの曲が、実にノリの良い演奏になっていて、リズムセクションのチェンバースのベース、フィリージョーのドラムも、うきうきと弾むように、活き活きと軽やかにビートを刻んでいる。
僕はこのアルバムが、他の3枚に比べて、ちょっと聴く回数が少ないのだが、それはコルトレーンが原因。ゴツゴツとしたフレーズで、野太い音量の大きいコルトレーンのテナーは、やはり当時、未熟だって言われていたのも納得なんだが、この『Relaxin'』では、そのコルトレーンの「ゴツゴツとしたフレーズで、野太い音量の大きい」部分が、他の3枚よりも「耳につく」のだ。
特に「If I Were A Bell」は残念。好きな曲、マイルスの調子も良い、アレンジも良い、だけど、コルトレーンのソロが出てくると「う〜ん、うるさいなあ〜」と思ってしまう。5曲目の「It Could Happen to You」では、ソロが硬くぎこちなくて窮屈だ。とにかく当時のコルトレーンには、まだ抑制が効かない部分があって、マイルスのペットの音色との「効果的な対比」を越えて、あまりにゴツゴツし過ぎて、あまりに野太すぎて、音が大きいことも相まって「アンバランス感」だけが強く出ることがある。そんな「負」の部分が、このアルバムでは、他の3枚に比べて、ちょっと多いかな〜。
この『Relaxin'』では、コルトレーンの発展途上ぶりが浮き彫りになっている分、ちょっと他の3枚と比べて分が悪い。ラストの「Woody 'N You」の演奏が終わった後の会話が、その発展途上ぶりを想像させてくれて微笑ましいと言えば微笑ましい。プロデューサーかスタッフの誰かが「もう一回やろう」と言った声に対して、マイルスがすかさず苛立ち気味に「ホワイ?」と返す。一瞬走る緊張感。しかし、続いて、コルトレーンが一言。これはいったい・・・、緊張感を緩和させようとする機微なのか、脳天気なのか。「栓抜きどこ?」・・・・(笑)。
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