ビル・エバンスとドラマーとの相性
ビル・エバンスの聴き直しを進めているが、やっとこさ、Verve時代のエバンスに突入した。このVerve時代のプロデューサーは、クリード・テイラー。はてさて、ビル・エバンスのピアノの本質をクリード・テイラーがしっかりと理解していたのかどうか。その辺がなんとなく「怪しい」ところが、良きにつけ悪きにつけ、Verve時代のエバンスのリーダー作の特徴となっている。
さて、そのVerve時代の最初のアルバムが『Empathy』(写真左)。このアルバムのリーダーは、Bill Evans単独リーダーでは無く、Shelly Manne との双頭リーダー作となっている。ちなみに、パーソネルは、Bill Evans (p) Monty Budwig (b) Shelly Manne (ds)。1962年8月14日、ニューヨークでの録音となっている。
この『Empathy』って、ジャズ者の方々からは結構評価が低くて、メタメタ切られまくっている。けど、そんなに言うほど悪くは無い、と僕は思っている。
特に、冒頭の「The Washington Twist」での、シェリー・マンのドラムとの、エバンスの喜々とした掛け合いがどうも評判が悪い。でも、エバンスのピアノを聴く限り、エバンス自身楽しんで弾いている様子。なぜかエバンスはシリアスでないといけない、という向きには、ゆゆしきことなんだろうが、とにかく、エバンスの多様性、柔軟性をここでは強く感じる。
ビル・エバンスとドラマーとの相性、ということは、2曲目の「Danny Boy」で感じる。もともと、エバンスは「間」を活用してスローな曲を弾き継ぐタイプ。それも独特の「間」の感覚があって、相当聴き込んで馴れないと、その独特の「間」の感覚がつかめない。
このアルバムでは、エバンスとマンはまだまだ「ツーカー」の仲ではない。マンは、エバンスの独特の「間」の感覚がつかめないまま、手探り状態で合いの手を入れているようで、ちょっと「ちぐはぐ」。エバンスの演奏内容が良いだけに惜しいなあ。
逆に、ハイ・テンポの曲は、実に良いコラボレーションとなっている。「Let's Go Back To The Waltz」「With A Song In My Heart」「I Believe In You」の3曲は、なかなか良い出来である。
特に、マンの多彩でハイテクニックなドラミングが見事。エバンスは趣向を凝らさず、素直な展開で、テーマからインプロビゼーションをグイグイ弾き進めていく。このハイ・テンポな3曲は良いと思います。エバンスとしてはちょっと異色な展開ですが、ここでもエバンスの多様性、柔軟性が発揮されています。
ただ、演奏全体の雰囲気は従来のハードバップ的な演奏に留まっており、当時先進的とされた、トリオでの3者3様、自由なアドリブを前提とした柔軟なインタープレイになっていないのは、エバンスとベースのモンティ・バドウィックとの相性というか、ベースのパドウィックがハードバップ時代のウォーキング・ベースを主体としているからでしょう。
ベーシストがエバンスと自由に絡むには、エバンスのピアノのベースラインを乱すことなく、逆にベースラインを活性化するようなラインを供給する必要があるのですが、そんなことは、全く意に介することなく、パドウィックが従来からのウォーキング・ベースを弾き進めています。あくまで、ベースはビートの供給に専念する、って感じなので、自由なアドリブを前提とした柔軟なインタープレイには決してなりません。
エバンスとガッチリ組むには、エバンスのピアノの独特の「間」と「ベースライン」に馴れる必要がある、と僕は睨んでいますので、このアルバムのスチュエーションである、一過性の会合セッション風では、なかなかエバンスのピアノが先進的な響きを聴かせることは無いと思っています。
それを差し引くと、スローな曲の演奏には、ちょっと課題が散見されますが、それでもエバンスのピアノは中々好調で、マンのドラミングのテクニックは申し分無し。パドウィックのベースは地味で目立たないのですが、それはそれで邪魔になるよりは良いので「及第点」。
このエバンスのVerve時代最初のアルバム『Empathy』。改めて聴き返してみると、まずまずの内容です。気合い入れて聴くよりは、あっさりと聴き流し風に聴くと、なかなか味があって良いです。エバンスの多様性、柔軟性が体験できる佳作だと思います。
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