エバンスの「本質と力量と本音」
僕は、多重録音を含めて、ビル・エバンスの「本質と力量と本音」は、ソロの演奏にある、と思っている。
デュオ以上、他のミュージシャンとの共演は、メンバーを固定してのレギュラー・トリオだろうが、客演中心のセッションであろうが、エバンスは、他のミュージシャンとの協調を優先する。自分のピアノを最大限に活かしながら、如何に内容のあるグループサウンズに仕立て上げるか、という「アレンジメントの才」が全面に出る傾向が強いと感じている。
しかし、ソロの場合は違う。心ゆくまで、自らの本質である「ダイナミズム」を大胆に追求する。自らの美意識を、手を代え品を変え、時には音を重ねてまで表現しようとする力量。そして、決してファンキーにならない、決してブルージーになり過ぎない、決してマイナーに浸らない、ポジティブでリリカルでダイナミックなジャジーさを、本音を語るように、心ゆくまで全面に押し出す。ソロ演奏にこそ、ビル・エバンスの「本質と力量と本音」がある。
その最右翼のソロ・アルバムが、Bill Evans『Alone』(写真左)。1968年9月の終わりから10月にかけての録音になる。時代はロックの台頭とフラワー・ムーブメントの波が押し寄せてきて、ジャズには辛い環境、辛い季節に急速になりつつあった時代。しかし、ビル・エバンスのパフォーマンスには全く関係がない。
たった一人の環境の中で、自分自身を相手に戦いを挑むかのように、神経を集中させ、試行錯誤を繰り返しながら、自らの才能と力量を信じつつ、自らの「本質と力量と本音」をピアノの音を通じて表現し、その「本質と力量と本音」をメロディに乗せるべく、「音の創造」に全力を尽くしている姿が目に浮かぶ。このソロ・アルバムは、そう言う意味で貴重な存在。
どの曲も素晴らしい出来である。CD化に当たりボーナストラックとして追加された「Medley: All The Things You Are / Midnight Mood」「A Time For Love (Alternate)」を聴けば、決して、このソロ・アルバムは、一発録りされたものではない。試行錯誤を繰り返し、プロデューサーに励まされ、テクニックの粋を尽くして紡ぎ上げられた、ミュージシャンとしてクリエイターとして、最高の努力と鍛錬の下に生まれた作品であることが良く判る。
ちなみに、LP時代のアルバムとしての正式な収録曲は以下の通り。アナログLP時代、B面すべてを占める14分にも及ぶ「Never Let Me Go」が、他の名演に増して、とにかく圧巻である。このソロ・アルバム『Alone』を鑑賞する場合は、以下の5曲に留めてご鑑賞下さいね。このボーナストラックは、普通は正式にリリースされない音源です。例えて言うなら、ソロ・アルバムが『Alone』が出来上がる過程を体感できる「ドキュメンタリー的音源」ですね。
1. Here's That Rainy Day
2. Time for Love
3. Midnight Mood
4. On a Clear Day (You Can See Forever)
5. Never Let Me Go
ビル・エバンスについては、過去より「耽美的な」ピアニスト、「静寂の」ピアニスト、と良く言われますが、実に無責任なコメントだと思います。エバンスの本質はダイナミズムにあります。そのダイナミズムが「静」「寂」の方向にふれると「耽美的」「静寂」になるだけです。エバンスのピアノは「ダイナミックで、懐の深い+幅の広い展開」「浪漫に流れず凛々しく、輪郭がクッキリとして、端正でしっかりとしたタッチ」が特徴です。
聴けば判る。このソロ・アルバムを聴けば、ジャズ・ピアニストの最高峰と呼ばれる所以が理解出来ると思います。でも、しかしまあ、アルバム・ジャケットのデザインはイマイチですね(笑)。
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