不思議な「バンガード・ライブ」
我が日本では、コルトレーンを「絶対」として信奉しているところがあって、コルトレーンのアルバムの全ては「賞賛」のトーンで占められていることが多い。でも、彼のアルバムを聴いていると、「どうもこのアルバムを良く判らんな〜」と感じる、不思議なアルバムが幾枚かある。
僕は、このコルトレーンの『Live at the Village Vanguard』(写真左)が、ジャズ初心者の頃から、不思議なアルバムの一枚である。収録された曲は、たったの3曲。パーソネルは、John Coltrane (ss, ts), Eric Dolphy (as, bcl), McCoy Tyner (p), Reggie Workman (b-1,2), Jimmy Garrison (b-3), Elvin Jones (ds)。ベースは、レジー・ワークマンとジミー・ギャリソンを使い分け。収録日は、1曲目が「1961年11月3日」。2〜3曲目は「1961年11月2日」。
1. Spiritual (13:50)
2. Softly, As in a Morning Sunrise (6:40)
3. Chasin' the Trane (16:11)
1曲目は「Spiritual」。タイトル通り、出だし、冒頭の、祈りの様な荘厳なテーマをコルトレーンが朗々と吹き上げる。そして、そこにドルフィーのバスクラが、まるでお経のように絡む。しかし、この後が続かない。
コルトレーンのソロは、なんだか不完全燃焼っぽく、抑制されたままで完了し、ドルフィーのバスクラは、何となく窮屈そうで、何となく吹きにくそうで、これもなんだか不完全燃焼っぽく終わる。期待のマッコイもピアノもあまり目立たず、「こりゃあかん」と思ったか、再び、ソプラノサックスを手にコルトレーンが割り込んで、ややテンション上がって、その後の展開への期待感が高まるが、ほどなく終わりのテーマを迎えてしまう。う〜ん、不完全燃焼を絵に描いたような演奏。
2曲目は、大スタンダード曲、邦題は「朝日のようにさわやかに」。この曲では、ピアノのマッコイ・タイナーが凄い演奏を繰り広げる。コルトレーンのお株を取ったような、ピアノでの「シーツ・オブ・サウンド」。凄いテクニックでの早弾き、敷き詰めた様な音符の洪水。恐らく、曲の調子が、マッコイのピアノの感性に合うんだろう。とにかく、ここでのマッコイは凄い。
しかし、ドラムのエルビン・ジョーンズがブラシからスティックに持ち替えたタイミングで、コルトレーンのソプラノサックスが乱入するが、全編通して、コルトレーンはあまり目立たない。そして、フロントのパートナー、ドルフィーの出番は「無し」。マッコイに唖然とするが「それだけ?」って感じのライブ演奏。
3曲目の「Chasin' the Trane」に期待がかかる。この曲は単純なメロディに、リズムは基本的に4ビート。その単純な構成の曲の中で、15分以上に渡ってコルトレーン吹きまくり、エルヴィン叩きまくり、でちょっと熱気溢れるが、ベースのギャリソンは良く聴こえず、マッコイのピアノはオミットされ、ドルフィーは最後のテーマでちょっとだけ音を出すのみ。
この『Live at the Village Vanguard』は「不完全燃焼」を絵に描いた様なライブ盤なのではないだろうか。主役のコルトレーンにしても決して「絶好調、凄い、素晴らしい」という感じじゃないし、ドラムのエルビンも無理して詰め込んだ感が残るし、ピアノのマッコイは、2曲目の凄まじいパフォーマンスがあって幸せだが、3曲目では完全オミット。ベースの両名は全く目立たず。そして、客演のドルフィーは、何となく窮屈そうで、何となく吹きにくそうで、結局目立たず終わる。総じて、グループ・サウンズとして著しくバランスを欠くライブ盤だと思う。
やはり、この時のライブ演奏の凄さを感じるには、この時のライブの全貌をおさめた『The Complete 1961 Village Vanguard Recordings』を聴くしかない。しかし、このコンプリート盤を聴くと、カットされていたエリック・ドルフィーの演奏が完全に収められていて、とりわけ、このドルフィーの演奏が凄まじかったことが良く判る。ここでのドルフィーのソロは、コルトレーンを凌駕していると言っても過言ではない。主役のコルトレーンを食ってしまったドルフィーの演奏は、コルトレーン名義では出せなかっただろうな。
僕は、この『Live at the Village Vanguard』については、2曲目のマッコイの凄まじい、ピアノ「シーツ・オブ・サウンド」を楽しみに聴きます。極論すれば、僕にとっての『Live at the Village Vanguard』は、コルトレーンでもなければドルフィーでもない、マッコイのピアノを愛でるためにあると言っても過言ではない。本当に不思議な「バンガード・ライブ」である。
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