初心者の頃は「何が何やら」...
ジャズの入門本のアルバム紹介や、ジャズ雑誌の初心者向けの入門アルバム紹介って「罪作り」やなあ、と思うことが時々ある。最近は無くなったが、僕らがジャズ初心者の頃、レコード会社が作成した販促キャンペーン用のジャズ入門アルバム紹介のパンフレットも、今から思えば「罪作り」やったなあ。
何が「罪作り」って、そのアルバム紹介に出てくるアルバムの中に、どう考えたって、ジャズ初心者には重荷なアルバムが挙げられているのだ。なぜ、そんな難解なアルバムがジャズ初心者向けに紹介されているのか、今もって理解に苦しむのだ。
僕が大学時代、ジャズを聴き始めた頃、レコード会社が作成した販促キャンペーン用のジャズ入門アルバム紹介のパンフレットを見て購入したアルバムの中にも、当時、ジャズ初心者の頃には「何が何やら」判らなかったアルバムがある。
そのアルバムの名は、Charles Mingusの『Charles Mingus Presents Charles Mingus』(写真左)。怒れるベーシスト、チャールズ・ミンガスの有名盤である。ちなみに、パーソネルは、Ted Curson (tp), Eric Dolphy (as, bcl), Charles Mingus (b, vo), Dannie Ritchmond (ds, vo)。1960年10月の録音である。
このアルバムが、販促キャンペーン用のジャズ入門アルバム紹介のパンフレットに出ていて、そして、このアルバムにまつわるエピソードを本で読んで、実に感じ入って、即購入に踏み切った。ジャズ入門アルバム紹介のパンフレットに挙げられているアルバムである。その内容が、ジャズ初心者の僕にとって「難解」だなんて思いもしなかった。
で、家に帰ってワクワクしながらレコードに針を落としたら「???」(笑)。何が良いのか、何が何やら判らない。いきなりミンガスのナレーションである。どの曲もミンガスから、何か一言あってから始まる。これがまず判らない(笑)。ジャズとしてこれが必然性のあるものなのか、ジャズ初心者当時、さっぱり理解できない。
収録された4曲は全て、フリージャズ一歩手前の、完全に尖った「ハードバップ・ジャズ」。テッド・カーソンのトランペットも、エリック・ドルフィーのアルトサックスも、そのフリー一歩手前の自由度の高いインプロビゼーションは、ジャズ初心者には「きつい」。解説を読んでも、何度聴き直しても「何が何やら」、何が良いのやら、さっぱり判らなかったなあ。
今の耳で聴けば、たった4人のカルテット演奏で、これだけ分厚いアンサンブルを奏でることができるのは、ミンガスの作曲、アレンジの成せる技だと思うし、フロントを支える、ミンガスとリッチモンドのリズムセクションの分厚さ故の成果だとも思う。そして、その分厚いリズムセクションをバックに、フロントのテッド・カーソンのトランペットも、エリック・ドルフィーのアルトサックスも、それはそれは自由に吹きまくる。
ミンガスは、アレンジの賜である分厚いリズムセクションをベースに、それぞれの楽器に最大限の演奏スペースを与え、フロント楽器奏者に、そのスペースを最大限に活かした自由度の高いインプロビゼーションを課した。カーソンのペットとドルフィーのアルトは、その難しいミンガスの要求に最大限に応えている。故にこのアルバムは名盤と呼ばれる。
ミンガスは、その手法で、アプローチは異なるが、マイルスと同様、ハードバップの演奏の自由度をフリー一歩手前まで最大限に広げたイノベーターの1人である。でも、ジャズ初心者の時代には、そんなことって全く判らないよな〜。当時、正直に告白すると、カーソンのペットとドルフィーのアルトは、単なる騒音にしか聴こえなかった。
ただ、ドルフィーのバスクラリネットは面白いと思った。ミンガスのベースは凄いと思った。ダニー・リッチモンドのドラミングは良い感じだと思った。それでも、このアルバムの良さはさっぱり(笑)。しばらくの間、購入したことを激しく後悔した(笑)。
このアルバムは、ミンガスの作曲とアレンジの妙と、分厚いリズムセクション、そして、フロントのカーソンのペットとドルフィーのアルトの自由度の高い、イマージネーション溢れるインプロビゼーションを愛でるアルバムだと思います。特に、若かりし頃のドルフィーが体験できる貴重盤です。
1960年代のジャズを語るときに忘れられないアルバムだからといって、ミンガスの代表盤の一枚だからといって、ジャズ初心者にこのアルバムを紹介するのは「酷」ってもんでしょう。ある程度ジャズを聴き込んだ後、チャールズ・ミンガスのベースとアレンジ力に興味を持った時に聴いてこそ、その真価が発揮される、ジャズ中級者以降向けのアルバムです。
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