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2010年3月28日 (日曜日)

ソフト&メロウなエレ・ハンコック 『Secrets』

エレ・ハンコックのアルバム探索も、やっと1976年に差し掛かる。ハンコックの「どアップ」のジャケットがどうも評判良くなかった印象のあるアルバムである。このハンコックの「どアップ」は、レコード屋で見ると常に気恥ずかしかった印象がある(笑)。Herbie Hancock『Secrets』(写真左)。

しかし、である。このジャケットに騙されてはいけない。このアルバムは、前作『Man-Child』の「大人のエレクトリック・ファンク」路線を、更に発展拡大させて、後のフュージョン・シーンのトレンドの「ソフト&メロウ」な路線をいち早く取り入れた作品として、僕は愛聴して止まない。

冒頭の「Doin' It」は、確かにファンク丸出しではあるが、ファンクな演奏の雰囲気が、実に「ソフト&メロウ」である。コーラスの入れ方もちょっとお洒落に、そしてシンセサイザーの使い方と音色が、実に「ソフト&メロウ」である。

2曲目の「People Music」は、特に、その「ソフト&メロウ」な音が色濃く溢れている。ハンコックのシンセサイザーのコード進行とモードチェンジは実に格好良く、バッキングに回った時のフレーズは素晴らしいの一言。今の耳で聴き返してみると、この辺に、フュージョン後期の「ソフト&メロウ」な演奏のルーツが隠されているような気がします。とにかく、この「People Music」でのハンコックのキーボード・プレイは素晴らしいの一言。

3曲目の「Cantelope Island」は自作曲の再演ですが、これは・・・。レゲエもどきですね(笑)。ちょっとやり過ぎですね。でも、レゲエもどきをやっているんですが、雰囲気は完全に「ソフト&メロウ」です。全く尖っていない(笑)。でも、これは・・・(笑)。

気を取り直して、4曲目以降へ。というか、このアルバムの真価は、4曲目以降の「Spider」「Gentle Thoughts」「Swamp Rat」「Sansho Shima」の4曲にあると言っても過言では無い。この4曲には、当時のハンコックの才能がギッシリ詰まっている。
 

Hh_secrets

 
「Spider」は、当時手慣れたエレクトリック・ファンク路線の延長線上の演奏ではあるが、バッキングのビートとフレーズは実に洗練されたものになっており、そのバッキングのフロントで紡ぎ出されるインプロビゼーションのフレーズは、それはもう「ソフト&メロウ」な素晴らしさ。どファンクを越えて、ソフト&メロウなファンクに昇華されている。

「Gentle Thoughts」は、ビートはファンキーであるが、出てくる旋律は、ポジティブでカリビアンな明るさに満ちたフュージョン的フレーズで溢れている。ハンコックのエレピのインプロビゼーションのキャッチャーな魅力に溢れ、トロピカルな明るさに満ちあふれている。ファンク・ビートを上手く織り交ぜた、上質のスムース・ジャズ。時代の先を行った演奏だと思います。

パンチの効いた「Swamp Rat」も聴き応え十分。ファンクなビートを演奏の底に漂わせてはいるが、もう「どファンク」ではない。後の「ソフト&メロウ」なフュージョンに応用されるフレーズ、ビートが満載である。ここには、もう『Head Hunters』からの「どファンク路線」は影が薄い。ここでも、ハンコックは時代の先を行っている。

そして、ラストの「Sansho Shima」で大団円を迎える。このラストの演奏は、既に「エレ・ファンク」な世界を突き抜け、ファンキーなビートを底に偲ばせた、超絶技巧で硬派なフュージョン演奏になっている。これは「ソフト&メロウ」な演奏では無く、実に硬派な、迫力満点のフュージョン・ジャズになっている。当時「超絶技巧+硬派な演奏」は、フュージョン・ジャズの魅力でもあった。ここでのバンド・サウンドは激しさ満点。

全編通じて、アルバムとしてのトータル性は薄い、という印象もあるかもしれませんが、このアルバムには、当時のフュージョンのトレンドを先取りした、フュージョン後期の「ソフト&メロウ」な演奏のルーツ的な演奏が満載です。フュージョン後期の「ソフト&メロウ」な演奏のショーケース的アルバムとでも言ったら良いでしょうか、さすがは「エレ・ハンコック」。いつの時代にも、時代の先取りをした音を出しているのは見事です。

ということで、このアルバム『Secrets』は、ハンコックのどアップなジャケットに臆することなく、特に、フュージョン・ジャズのファンの方々にお勧めの佳作だと思います。
 
 
 
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