ピアノ・トリオの代表的名盤・10
僕がジャズ者初心者の頃、このピアノ・トリオは実に良く判った、というか、このピアノ・トリオの演奏は判りやすくて、ヘビー・ローテーションになった。
ビル・エバンスの『At The Montreux Jazz Festival』(写真左)。1968年のモントルー・ジャズ・フェスティバルでのライブ演奏を収録。パーソネルは、Bill Evans (p) Eddie Gomez (b) Jack DeJohnette (ds)。
今や、ジャズ界最高のドラマーの1人であるジャック・デジョネット。ベースのエディ・ゴメスは1966年にビル・エヴァンス・トリオに参加。当時、2人は本盤録音時点ではまだまだ無名。しかし、この2人の溌剌とした演奏が、エバンスに火を付けた感じの、ポジティブでハードタッチなピアノ・トリオ演奏である。
これはエバンスの本質では無い、という人もいる。エバンスは耽美的でリリカルなピアノだと言う。でも、このモントルーのライブ盤のハードタッチのエバンスも、実はエバンスである。
エバンスは実に柔軟なピアニストである。エバンスは伴奏に回って、フロントのミュージシャンを立てまくる演奏も平気でできる、柔軟でハイテクニックなピアニストである。特に、エバンスは、信頼できるパートナーと呼べるベーシストに恵まれると、ベーシストを拠り所に、ドラマーの個性にあわせて、ピアノを弾きこなす傾向がある。
このライブ盤もその傾向のひとつと僕は睨んでいる。信頼できるパートナーと呼べるベーシストとして、若きエディ・ゴメスに恵まれ、安心して、ゴメスのベースを拠り所に、デジョネットのドラムの個性に、バッチリあわせて、ピアノを弾きまくっている。デジョネットのドラムはアグレッシブ。エバンスのピアノもアグレッシブ。あわせて、ゴメスのベースもアグレッシブ。
デジョネットが叩きすぎる、という向きもある。確かに、エバンスのバッキングということを考えると、叩きすぎですな(笑)。でも、当時、まだまだ無名に近い、若手のデジョネット。エバンスに抜擢されて、モントルー・ジャズ・フェスティバルに出演である。舞い上がって、叩きすぎても不思議では無い。
しかし、信頼できるパートナーと呼べるベーシストとして、若きエディ・ゴメスに恵まれ、その若さ故の叩きすぎのデジョネットにあわせて、ポジティブにハードタッチに弾きまくるエバンスは、これまた凄い。あわせて、ブンブンと弦を震わせ、アコースティック・ベースを弾きまくるゴメスも凄い。
デジョネットが叩きまくり、ゴメスがブンブンいわせ、エバンスが弾きまくる。それでも、がっちりとしたピアノ・トリオとして、しっかりとしたグループサウンドを成立させているところに、エバンスのリーダーシップを強く感じる。
ピアノ・トリオの入門盤として挙げられることの多い『At The Montreux Jazz Festival』ですが、意外にハードタッチな内容なので、エバンスのピアノは耽美的でリリカル、と思っている方は、このライブ盤を聴くと絶対に戸惑うでしょうね。
4曲目のエバンス十八番の「Nardis」の、パワフルなタッチは、おそらくエバンスの演奏の中で、一番ハードタッチなものではないだろうか。8曲目の「Someday My Prince Will Come」も同様。おそらく、エバンスの演奏の中で、一番ハードタッチで尖った「いつかは王子様が」である。でも、そのハードタッチな演奏が素晴らしい。決して異質だとは思わない。このライブ盤の演奏は、それだけの説得力がある。
ジャケット写真に写るのは、モントルー・ジャズ・フェスティバルの会場のすぐ近く、スイス・レマン湖のほとりに建つ古城。本作は、その内容に敬意を表して「お城のエヴァンス」と呼ばれる。
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