懐かしのアルバムに出会った
昔々、良く聴いたアルバムなんだが、なんかの拍子に聴くこと無くなって、暫く忘れ去ってしまっているアルバムが幾枚かある。そのほとんどが、学生当時、財政難でLPとして購入できず、ジャズ喫茶でのリクエストで凌いでいたか、貸レコード屋で借りてきてカセットにダビングして良く聴いていたが、そのカセットがどこかへ行ってしまったか、である。
先日、iTunes Storeを徘徊していて、懐かしいアルバムに再会した。Gary Burton & Steve Swallow 『Hotel Hello』(写真左)。1974年5月の録音。Steve Swallow(スティーブ・スワロー)がベースとピアノ、Gary Burton(ゲイリー・バートン)がヴィヴラフォン、マリンバ、オルガン、エレクトリック・ピアノを担当した多重録音を含めたデュオ・アルバムである。
バートンのヴァイブは、ジャズ・ヴァイヴの最高峰、ミルト・ジャクソンのファンキー&ジャジーなヴァイヴとは正反対の、ファンキー色とは全く無縁の、爽快感豊かなクリスタルな響きとバートン独特の4本マレットが奏でる印象的な和音が特徴。ミルトのヴァイヴを米国的な音だとすると、バートンのヴァイヴは欧州的。印象的なエコーと音の深みが特徴なECMレーベルにピッタリなヴァイヴである。
そして、バートンの音楽の個性は、アメリカン・ルーツ・ミュージックをベースとした、シンプルでメロディアスなフォーキー調、賛美歌の様な響きを湛えたゴスペル調、8ビートがベースのビートの効いたロック調、そして、クリスタルなヴァイヴの響きを全面に活かしたロマンチシズム豊かなバラード調。そんなバートンの音楽の個性が、このアルバムでは全開である。
収録されたどの曲も、バートンのヴァイヴが美しい。躍動感溢れる曲も、しっとりと浪漫の花咲くバラードも、フォーキーでシンプルな曲も、どの曲においても、バートンのヴァイヴは美しく楽しい。特に、4本マレットの和音効果が独特の個性として響いてくる。そして、このバートンのヴァイヴは、スワローのベースと良く合っている。実に愛称の良いデュオである。
しかし、そのスワローのベースとのデュオにも増して、バートンのヴァイブと愛称が良いのが、スワローのピアノ。そして、自身が弾くオルガン&エレクトリック・ピアノである。特に、スワローのピアノとのデュオが実に良い感じで、今の耳で聴き直してみて意外な気がした。案外、チックとバートンとの歴史的なデュオは、このアルバムが事の発端かと思ったりもする。
多重録音を採用していると思われるが、これがジャズなのか、と訝しがるジャズ・ファンの方々もいらっしゃると思われるが、このアルバムの様に、ファンキー色、ジャジーな雰囲気が希薄なジャズを録音し、我々に供給する、これってECMレーベルならではの仕業である。
でも、これもジャズ。音が粒だっていて、効果的なエコーが音を際立たせ、聴いていて、ただただ演奏の美しさを楽しさを愛でるのみ。ECMレーベルならではのアルバム内容だろう。
このアルバムには、大学時代、1人で密かに通っていた「秘密の喫茶店」で初めて出会った。ジャズを聴き始めて間もない頃である。このアルバムの音の美しさと楽しさ、そして躍動感に耳は釘付け。でも、どのレコード屋を探しても、このアルバムは見当たらず、「秘密の喫茶店」で、度々リクエストした。
大学の小径を抜けて、細い路地のような坂道を、川に向かって降りていく。坂の途中に、真っ白な壁の洋館が建っており、その白壁の向こうには、青々とした芝生の庭があって、その一角、趣のある古木の扉の向こうに、その喫茶店はあった。その中は、古い木調の雰囲気に囲まれた、15人程度しか座れないコンパクトなスペースで、オシャレな観葉植物があしらわれたその雰囲気は、学生街の雰囲気ではなかった。シックな大人の雰囲気だった。この喫茶店は、粗雑な友人達とは決して訪れない、僕だけの「秘密の喫茶店」だった。
オーナーは、とても品の良い、美しい、物静かな妙齢の女性だった。なんで、こんな所で、こんな女性が、喫茶店をお守りしているかが、とても不思議だった。しかも、その喫茶店で流れる音楽は、小粋なモダン・ジャズであったり、オシャレなフュージョンだったり、その趣味の良い、良く選ばれたアルバム達は、いつも、リッチな音空間を現出していた。
そんな「秘密の喫茶店」で流れていた、Gary Burton & Steve Swallow 『Hotel Hello』。躍動感溢れる曲も、しっとりと浪漫の花咲くバラードも、フォーキーでシンプルな曲も、どの曲においても、バートンのヴァイヴは美しく楽しい。その印象的なモノクロ・ジャケットと共に、しっかりと覚えている。
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