マッコイ・タイナーの面目躍如
マッコイ・タイナーは伝説のピアニスト。かのジョン・コルトレーンの黄金のカルテットのメンバーである。1938年生まれなので、今年、72歳になる。スケールが大きく、ガーン、ゴーンという、明確で力強い、男性的で輪郭が鮮やかなピアノ・タッチが特徴のピアニストである。
あのテナーの最高テクニシャンであったコルトレーンのバッキングを長く務めただけあって、自らが全面に出てガンガンに弾き倒すよりは、フロント楽器のバッキングに回って、ガーン、ゴーンという、明確で力強い、男性的で輪郭が鮮やかな「バッキングのピアノ」が素晴らしい。
僕は、マッコイの本質は「バッキング」にあると睨んでいる。マッコイの本質は「バッキング」にあるとすると、フロント楽器を含めたカルテットやクインテットの演奏が、そのマッコイの本質を心ゆくまで愛でることのできる「最適な演奏フォーマット」だと思っている。
そんなマッコイ・タイナーの「バッキング」の素晴らしさを感じることのできるアルバムが2008年にリリースされている。その名も『Guitars』(写真左)。
McCoy Tyner (p), Ron Carter (b), Jack Dejohnette (ds) との豪華なピアノ・トリオをバックに、Bill Frisell、Marc Ribot、John Scofield、Derek Trucks の4人のギタリスト、そしてバンジョー奏者のBela Fleck をフロント楽器に迎えてのスタジオ演奏を収録した「企画盤」。このギタリスト+バンジョー奏者の人選がニクイ。アルバムのプロデューサーであるジョン・スナイダーの大手柄である。
さすがに、かのジョン・コルトレーンのバッキングを長年勤め上げたピアニストらしく、それぞれの個性が全く違うギタリスト達のバッキングを実にガッチリとサポートしている。特に、マッコイのピアノは、ガーン、ゴーンという、明確で力強い、男性的で輪郭が鮮やかなピアノが特徴であるが、この「輪郭が鮮やか」な部分が、特にギターのバッキングの時に、実に効果的に作用する、ということが、この『Guitars』を聴いて見て非常に良く判った。
特に、ややアブストラクトで直感的な音色を供給するBill Frisell、しっかりと捻れて捻りが効いた音色を供給するJohn Scofieldでのバッキングが冴え渡っている。さすがに、コルトレーンに従事しただけあって、モーダルでアブストラクト、捻れて捻りが効いたジャズ・ギターのバッキングが得意な様子。実に頼もしいジャズ・ピアノとしてのバッキングである。
Marc Ribotは主に実験音楽、フリー・ジャズの分野で活動しているギタリスト。メインストリーム・ジャズ系のギタリストでは無いが、このアルバムでは、なかなか印象的なメインストリーム・ジャズ系のしっかりとしたジャズ・ギターを聴かせてくれている。
そして、Derek Trucksの参加にはビックリした。彼はもともとはサザン・ロックの雄、オールマンズのギタリストの1人。しかし、ジャズ・ギター系のアルバムもリリースしているという「変わり種」。そのDerek Trucksがガンガン弾きまくる音は実に素晴らしい。
Bela Fleckはプログレッシブなバンジョー奏者。僕は、チック・コリアとのデュオで、その名を知った。実に先進的なバンジョーを弾く。その音はバンジョーなのだが、このアルバムでは十分に「ジャズ」している。よくこれだけジャジーな演奏、ジャジーな音色をバンジョーでだせるものだ、と感心することしきり。
マッコイのピアノは、フロント楽器の個性が強ければ強いほど、その「バッキング」の真価を発揮する。そして、フロント楽器の演奏者のテクニックと歌心が確かであれば確かであるほど、マッコイのピアノはリラックスし、実に楽しそうに、フロント楽器の演奏者の音にフィットした、堅実かつ印象的なバッキングを供給する。
この『Guitars』、ギタリストの個性を愛でる前に、往年のマッコイを十二分に彷彿させる、そのギタリストの個性に合わせたマッコイのピアノ、特に「バッキング」を愛でるアルバムです。これって、やはりプロデュースの勝利でしょう。「企画盤」としても実に良くできたアルバムです。
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