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2010年2月12日 (金曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・7

ピアノ・トリオの代表的名盤のご紹介シリーズの第7弾。今回は、僕の大のお気に入りピアニストのチック・コリア(Chick Corea)である。

チックのピアノ・トリオ盤は多々あるが、まず、真っ先に挙げたくなるのが『Now He Sings, Now He Sobs』(写真)だろう。パーソネルは、チック・コリア(p)、ミロスラフ・ヴィトウス(b)、ロイ・ヘインズ(ds)。1968年NY録音。Solid State盤でブルーノート・レーベルから発売されている。

このピアノ・トリオは、ビル・エバンスの確立した「3者3様のインプロビゼーション」を基本とした、メロディアスかつモーダルな展開を、ハードバップな展開を限りなくフリー・ジャズに近づけながら、「3者3様のインプロビゼーション」を超絶技巧なテクニックで、より高速に、より柔軟に、よりモーダルに仕立て上げた、メインストリーム・ジャズの最先端の演奏である。

ピアノのチックも、ベースのビトウスも、ドラムのヘインズも、ハイテクニックにバリバリと弾きまくっていて、その疾走感とテンションの高さは特筆もの。冒頭の「Steps - What Was」なんか、それはそれは、もう凄みのある演奏に押されて、知らず知らずのうちに襟元を正したりする(笑)。

「Steps - What Was」の出だしは、当時のチックお気に入りの、ハードバップな展開を限りなくフリー・ジャズに近づけ、現代音楽的なアブストラクトな響きを醸し出しながら、いきなり疾走し始める。それに呼応するヘインズのドラムとビトウスのベース。特に、ヘインズのドラミングが凄い。こんなにフリーに近い、柔軟で臨機応変でダイナミックなドラミングをする人とは思わなかった。

ビトウスのベースもブンブンと高速フレーズを連発して、ロインズのドラミングに併走し、フロントのチックのピアノを追撃する。そして、目眩く展開の中で、チックのスパニッシュでロマンティシズム溢れるフレーズを飛び出したりして、うへ〜っ、という感じになって、3者が渾然一体となって、フィニッシュへと突入する。一糸乱れぬ展開に、手に汗握り気分である。

2曲目の『Matrix』は、歌うような印象的なフレーズを持つ名曲。これまた、チックお気に入りの、ハードバップな展開を限りなくフリー・ジャズに近づけ、現代音楽的なアブストラクトな響きを随所に織り交ぜながら、ビ・バップ時代、ハード・バップ時代のジャズ・ピアノとは全く異次元の、切れ味の良い、高速パッセージを振りまいていく。この音は、唯一無二、チックのピアノ・トリオならではの音ですね。ここまでが、LP時代のA面です。

Cc_now_he_sings

3曲目からが、LP時代のB面。タイトル曲の「Now He Sings, Now He Sobs」から始まりますが、このB面は、チックの個性がより判りやすい展開が実に魅力的です。チックならではの黒いブルージーな感覚とチックお得意のスパニッシュ系ロマンティシズム溢れるフレーズが、実に魅力的です。チックの個性が一番輝くビートは、速すぎない落ち着いたミッドテンポなビートなのですが、その落ち着いたミッドテンポなビートに乗って、チックの個性的なピアノが浮き出てくるようです。

ラストの「The Law Of Falling And Catching Up」は、徹頭徹尾、現代音楽的なアブストラクトな音で固められている。しかし、ラストでのこのアブストラクトでフリーな音は、チックの個性で忘れてはならないもので、これはこれで、何故がジックリと聴き耳をたててしまうのだ。そして、これもジャズ、これもチック、と思いながら、LP時代A面の「Steps - What Was」に戻って、もう一度のこのアルバムを聴き直す。そんな「繰り返し」の魅力のあるピアノ・トリオ・アルバムです。

この『Now He Sings, Now He Sobs』は、

1. Steps - (with What Was)
2. Matrix
3. Now He Sings, Now He Sobs
4. Now He Beats The Drum, Now He Stops
5. The Law Of Falling And Catching Up

の5曲で聴くべきアルバムです。LP時代の曲構成が実に優れていて、アルバム『Now He Sings, Now He Sobs』としては、LP時代の5曲に限って、心ゆくまで鑑賞して頂きたいと思います。

というのも、オリジナルLPは、上記で述べた5曲入りだったんですが、現在出ているCDは13曲入りとボートラ大盤振る舞い。チックのファンにとっては、それはそれで嬉しいんですが、ピアノ・トリオ・アルバムとして、『Now He Sings, Now He Sobs』を心ゆくまで鑑賞するには、ボートラの8曲は、はっきりいって邪魔です。なお曲順も、上記のような曲順が正式なものです。リリース時期の異なるアルバムの中で、LP時代の曲順を全く無視して、単純に録音順に13曲を並べたものもあるので注意が必要です。

『Now He Sings, Now He Sobs』を楽しむには、本来の5曲に絞って聴くべきだと思います。僕は、iTunesにてプレイリストを組んで、本来の5曲だけを繰り返し聴けるようにしています。そうすると、5曲目ラストでのこのアブストラクトでフリーな音を聴きながら、これはこれで、何故がジックリと聴き耳をたててしまいつつ、これもジャズ、これもチック、と思いながら、LP時代A面の「Steps - What Was」に戻って、もう一度のこのアルバムを聴き直すという、そんな「繰り返し」の魅力を気軽に味わうことが出来ます。

CD時代のこのアルバムに触れる度に思います。ボーナス・トラックの追加も良し悪しだな、と。LP時代には、LP時代のフォーマットと収録時間との兼ね合いで、収録曲について良く考え、良く吟味して選択し、演奏順を決定しているアルバムも多々あって、LP時代のアルバムの成果については、それはそれで実に重要かつ実に貴重な成果なのだと思います。

チック・コリアのピアノ・トリオの源が体験出来る良いアルバムです。LP時代の5曲に絞れば、ジャズ初心者の方々にもお勧めです。ジャズ初心者の方々ほど、LP時代の5曲に絞って、じっくりと繰り返し聴いてほしいなあ、と思います。 
 
 
 
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