ピアノ・トリオの代表的名盤・5
久しぶりに「ピアノ・トリオの代表的名盤」シリーズである。今日は第5弾。ケニー・クラークである。ケニー・クラークは、ジャズを聴き始めた、ジャズ初心者の頃からのお気に入りのジャズ・ピアニスト。初めて聴いたアルバムが、ブルーノートの『Sonny Clark Trio』(写真左)。ジャズ入門本で読んで、これは、と思い購入。
冒頭の「Be-Bop」と2曲目の「 I Didn't Know What Time It Was」で一目惚れ(2曲だから二目惚れか?)。何と言ったらいいのか、ジャズ特有のマイナーさ、というか、ジャズ特有の「ほの暗さ」が、当時、ジャズ初心者の心に響いた。ソニー・クラークのピアノのマイナーな響きは、ジャズ初心者の僕にも「これはなんか実に個性的で、自分の感性に合う」と思った。
ソニー・クラークのピアノの特徴は「そこはかとなく芳しいシンプルなマイナー調」である。タッチは強くて深い。独特な打鍵のタイミング。テクニックは端正。しかもハイ・テクニック。速いパッセージもしっかりと弾きこなす。バラードも情緒的で良し、ソロ・ピアノもなかなかの内容。けれど、どの曲調でも「マイナーな雰囲気」がしっかりと漂う。
ハイ・テクニックでスインギーだからといって、ウィントン・ケリーの様なハッピー・スインガーでは無い。タッチは強くて深く、独特な打鍵のタイミング。そして、シンプルで端正。しかもハイ・テクニック。速いパッセージもしっかりと弾きこなす。バラードも情緒的で良し、ソロ・ピアノもなかなかの内容。とくれば、ビル・エバンス的と思うが、それも違う。
う〜ん、なんと表現したら良いか。そう、ビル・エバンスのロマンティシズムをマイナー調に捻った、とでも表現したら良いか。そして、こもったような「ほの暗さ」をまぶしたようなピアノ。
タッチは強くて深く、独特な打鍵のタイミング、そして、シンプルで端正なので、ポジティブな雰囲気が底に流れ、決して「暗く」は無く、決して「ネガティブ」では無い。そこはかとなく漂うファンキーさ、明確なジャジー的雰囲気と相まって、「そこはかとなく芳しいシンプルなマイナー調」なピアノの音が実に魅力的かつ個性的。
その「そこはかとなく芳しいシンプルなマイナー調」という特徴が、5曲目「Softly As In A Morning Sunrise」で全開となる。実に印象に残るマイナーに捻ったシンプルな響き。底に漂う「ほの暗さ」が堪らない。それでいて、タッチは強くて深い。テクニックは端正。いやはや、この曲の演奏には「ジャズらしさ」を強烈に感じる。
改めてパーソネルは、Sonny Clark (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。1957年10月の録音。ソニー・クラークの「そこはかとなく芳しいシンプルなマイナー調」なピアノには、メリハリの効いた、チェンバースのベースとフィリー・ジョーのドラムが相応しい。さすが、ブルーノートの総帥、アルフレッド・ライオンの慧眼である。
極めつけは、恐らく、ソニー・クラークのピアノの音にじっとりと漂う「ウェット感」。この「ウェット感」は米国的では無い。ロックで言えば、実に「英国的」。僕は、このソニー・クラークの「そこはかとなく芳しいシンプルなマイナー調」と、そのピアノの音に漂う「ウェット感」に、今でもしっかりと「やられた」ままである(笑)。
ジャケット・デザインも秀逸(LPサイズなら「なお良し」)。今でも、ソニー・クラークのピアノを聴くと、じわーっと心が優しくなって、しっかりと内省的になる。そして、心がリラックスして、ストレスが解放される。ブルーノートの『Sonny Clark Trio』は、僕のジャズ・ライフの源の一つである。
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