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2010年1月 6日 (水曜日)

Weather Reportの後期の傑作

ちょっと偏った見方かもしれないが、Weather Reportは、その13年間の活動の歴史は「3つ」に分かれる、と僕は思っている。

ウェイン・ショーターとジョー・ザビヌル、ミロスラフ・ビトウスの3頭リーダー体制だった、1971年「Weather Report」から1973年の「Sweetnighter」までの前期。

ビトウスが抜け、ザビヌルが野心溢れる「実質単独リーダー」状態から、ジャコ・パストリアスを迎えて大ヒットを飛ばした、1974年「Mysterious Traveller」から1977年の「Heavy Weather」までの中期。

ザビヌル、ショーター、ジャコの3頭体制の1978年の「Mr. Gone」から、今度はジャコが抜け、ショーターがフェードアウトし、どんどんザビヌル色が色濃くなり、遂にザビヌル一人が取り残された1986年の「This Is This!」までの後期。

前期3作、中期4作、後期7作(ライブ除く)なので、ちょっと後期が偏っているが、後期のラスト2作はもはやWeather Reportの作品では無いと思っているので、ちょうど良いかなあ、と自己完結している(笑)。

その後期の傑作の一枚が、1980年の『Night Passage』(写真左)。パーソネルは、Josef Zawinul (Key), Wayne Shorter (ts,ss), Jaco Pastorius (b), Peter Erskine (ds), Robert Thomas Jr. (Hand ds)。Weather Reportの歴史史上、最強のラインアップである。このラインアップでこの傑作が生まれた訳である。

前作『Mr. Gone』で、ザビヌルは焦った。ジャコ(Jaco Pastorius)に任せたら、なんと希有な傑作が生まれてしまった。でも、この『Mr. Gone』は、Weather Reportの傑作では無い。ジャコの傑作である。ジャコがWeather Reportという楽団を使って、プロデュースした、ジャコの傑作である。

でも、ザビヌルは焦った。これでは自らの存在意義が無くなってしまうのではないか。でも、ジャコの音世界を排除することは出来ない。そこで、ザビヌルは大団円な解決策に出る。ジャコ半分、ザビヌル半分。ジャコのアーティスティックな音世界とザビヌルのポップな音世界を等分に融合して、テナーのショーターを積極的に参画させ、そして、アースキンのドラムに恵まれ、傑作をものにした。その傑作が、この『Night Passage』である。

Wr_night_passage

冒頭の「Night Passage」を聴けば、その「ジャコ半分、ザビヌル半分。ジャコのアーティスティックな音世界とザビヌルのポップな音世界を等分に融合」している感覚がお判りになるのではないかと思う。ザビヌルのキーボードの旋律のポップな感覚。耳当たりの良い、キャッチャーな旋律。でも、しっかりと耳を傾けて欲しい。そのバックで、途方もなく自由で柔軟なビートを叩きだしているジャコのベースが延々と続いている。

ピーター・アースキンのドラムを得て、リズムのキープはアースキンに全面的に任すことが出来た。よって、ジャコのベースは自由を得、自由自在、硬軟自在、驚愕のテクニックを伴って、歌うように、時にはうねるように、バンドにビートとメロディを供給する。2曲目の「Dream Clock」、4曲目の「Forlorn」の静謐で美しい演奏。ジャコのベースは単独で歌い、ザビヌルのキーボードと歌い、ショーターのテナーと寄り添う。素晴らしいハーモニー&ユニゾンである。これは凄いベースである。ジャズ界史上、最高のエレベである。

そして、極めつけは、7曲目の「Three Views of a Secret」。ジャコの傑作。実に美しい、実に印象的な、スローでテンション溢れる名演。テナーのショーターも美しく歌い、ザビヌルのキーボードは効果的に美しく響く。このアルバムにきて、ザビヌルのキーボードはやっとその個性を確立した。テクニックではない、ザビヌル独特の音の重ね方によって、ザビヌルは、やっとのことでその「音の個性」を確立した。このアルバムでは、そんなザビヌル独特のキーボード・ワークをふんだんに聴くことが出来る。

サックスのショーターも、ジャコに刺激されて、このアルバムでは、久しぶりに本気で、彼独特のフレーズを連発してる。このアルバムでのショーターは凄い。天才サックス奏者、ショーターの面目躍如である。

とにかく、このアルバムは、Weather Reportの後期の傑作の一枚。Weather Reportを聴き始めるのは、このアルバムが良いと思う。Weather Reportの特徴が素晴らしさが、アルバムの中に溢れんばかりに煌めいている。


今朝は寒い朝。息が白く、朝日に映える。しかし不思議とストレスのある寒さとは感じない。恐らく、きっぱりと晴れ渡った空と輝くばかりの朝日があまりに美しいからだろう。そんな真っ青な西空にポッカリと下弦の月が残っている。実に印象的である。
 
朝日浴び 寒さに惑う 下弦月
 
 
 
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コメント

こんにちは。jamkenです。ウェザーの記事、楽しく拝見しました。ウェザーにかんしては少し片寄った聞き方をしていたので、非常に参考になりました。実はこのアルバムまだ聞いてませんでした。ウェザーのポップな曲に嫌悪感を抱いてまして、後期と初期しか聞いてませんでした。よく整理できました。早速聴いてみたいと思います。

いらっしゃい、 jamkenさん。松和のマスターです。

このWeather Reportの『Night Passage』は、メインストリーム・ジャズの
傑作だと思います。

W.R.は、ザビヌルが電子キーボードを駆使、多用しているので、フュージョンの
ジャンルで評価されるケースが多いのですが、W.R.の叩き出すビートを聴けば、
フュージョンでは無く、このバンドのビートは、メインストリーム・ジャズの
ビートをしっかりと抱きつつ、当時、最先端を行くコンテンポラリーな要素を
しっかりと取り入れた「メインストリーム・ジャズ」だと思っています。

しかしながら、ザビヌルのように、電子マルチ・キーボードを操るハイテクな
キーボーダーがなかなかジャズ界で育たず、W.R.の後を継ぐ者がなかなか出現
しないのがもどかしいです。ピアニストは多々出てくるんですが、電子マルチ・
キーボーダーとなれば、なかなか出てこない。確かにピアノ単体に比べて、
難しいことは難しいんですが・・・。

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