コルトレーンの初リーダー作
以前から、着々とジョン・コルトレーンの諸作を聴き直しているんだが、いろいろなアルバムを聴き倒した後、僕は、必ず、このコルトレーンの初リーダー作に戻ることにしている。この『Coltrane (Prestige)』(写真左)には、コルトレーンの彼の個性・特徴がぎっしりと詰まっているのだ。この初リーダー作を聴いて、彼の「基本」を再確認して、またいろいろなアルバムを聴き倒していく(笑い)。
『Coltrane (Prestige)』。1957年3月の録音。記念すべき、ジョン・コルトレーンの初リーダー作。当時、コルトレーンは30歳。初リーダー作を担うには、かなりの遅咲きである。
マイルス・デイヴィスに見出されたのが、1955年、29歳の時なので、もともと、新進のテナーマンとして注目を浴びた時期がかなり遅い。当時、それほど、コルトレーンのテナーは、当時のジャズ・テナーの標準から「かなり外れていた」ということだろう。感謝すべきはマイルス・デイヴィスである。彼がコルトレーンに着目しなかったら、コルトレーンは、ここまでのジャズ・ジャイアントには、なっていなかっただろう。
この初リーダー作には、コルトレーンの個性・特徴がしっかりと詰まっている。演奏スタイルとしては、ハードバップの域を出ていないのだが、後のコルトレーンの個性・特徴をしっかりと押さえてあるのは立派である。Prestigeレーベルとしては「大手柄」である。
1曲目の「Bakai」はトランペッターのカル・マッセイのマイナー曲。サヒブ・シハブのバリトン・サックスを含めた6重奏団での演奏なのだが、コルトレーンのアレンジが好調。テーマ部は、バリトン・サックスの重低音を上手く活かした、6重奏団の分厚いユニゾン&ハーモニーが印象的。
インプロビゼーション部では、効果的なチェンジ・オブ・ペースを織り込み、レッド・ガーランドのシンプルなピアノとストレートなコルトレーンのテナーを浮き立たせている。テーマ部の分厚さとインプロビゼーション部のシンプルさが非常に対象的で、その対象的な落差が、この演奏のドラマチックな展開に大きく寄与している。アレンジの勝利である。
2曲目の「Violet For Your Furs」、邦題は「コートにすみれを」。マット・デニスによる作品で、実に印象的なバラード曲である。スタンダード曲は「プレーヤーがその楽曲をどう解釈し演奏するか」が楽しみであるが、特に、この「Violet For Your Furs」は、プレーヤーのバラード演奏に対する解釈、見識が良く判る曲である。
ここでのコルトレーンのバラード演奏は絶品。原曲のメロディーを充分に踏まえつつ、中高音域を中心とした、ビブラートを排したストレートなブロウで、情感過多を排除し、余分な甘さを押さえることで、独特のバラード解釈を確立している。確かに、コルトレーンのバラード演奏は判り易く、聴き易い。
3曲目の「Time Was」は、演奏テクニック溢れる、ハード・バピッシュなテナー演奏が実に楽しい。コルトレーンのテナーの最大の魅力は「テクニック」である。この曲でのインプロビゼーション部での展開は穏やかで、コルトレーンの演奏テクニックの特徴である「シーツ・オブ・サウンド」は明快には感じることが出来ない。しかし、コルトレーンの疾走感溢れる、音符を敷き詰めた様な、あの目眩く高速ブロウの世界は、彼の演奏テクニックの最大の特徴だろう。
このコルトレーンの初リーダー作『Coltrane』には、彼の個性・特徴がぎっしりと詰まっている。1つは「卓越したアレンジ&作曲能力」、2つ目は「独特なバラード解釈」、3つ目は「高速ブロウ=シーツ・オブ・サウンド」。この3つの個性・特徴がコルトレーンの魅力。この初リーダー作以降、コルトレーンは、3つの個性・特徴をベースに「実験、チャレンジ、鍛錬」を幾度となく繰り返し、遂には、前人未踏の「超絶技巧」な世界を追求していくこととなる。
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