ジャズ、今年の「聴き初め」・1
旧来より、お正月のイベントとして「書き初め」というものがある。「書き初め」とは、年が明けて初めて毛筆で書や絵をかく行事。それでは、音楽鑑賞の趣味においては、年が明けて初めてCDを聴く行事を「聴き初め」と言うんだろう(笑)。
で、その「聴き初め」である。毎年、1月1日の夜、自分の一番お気に入りのアルバムをかけて、その音世界を愛でて、今年の音楽三昧の生活に幸あれ、と願う行事が、高校一年生の正月以来の「我が行事」となっている。
しかしながら、2004年の正月から5年間、2009年の正月までは、この「聴き初め」の行事については、自分の一番お気に入りのアルバムを聴く、という部分を封印してきた。
この5年間は、本業の方が逆境に次ぐ逆境の嵐で、心落ち着いた正月を迎えることが出来なかった。怒りを感じ、絶望を感じ、悲しみを感じた5年間であり、さすがに、この逆境の嵐が吹き去るまで、自分の一番お気に入りのアルバムを聴く、という部分を封印しよう、と思った。
そして、やっと昨年、サヨナラ逆転本塁打の様な幸運に恵まれ、やっと今年、心落ち着いた正月を6年ぶりに迎えることが出来た。6年ぶりに、自分の一番お気に入りのアルバムをかけて、その音世界を愛でて、今年の音楽三昧の生活に幸あれ、と願う行事「聴き初め」を復活しようと思い立った。
まず、選んだジャズ・アルバムが、Chick Coreaの『Return to Forever』(写真左)である。ジャズのアルバムの中で一番好きなアルバムを一枚だけ挙げよ、と言われたら、僕は十中八九、この『Return to Forever』の名を挙げる。大学1年生の時に出会って以来の、僕にとっての「永遠の名盤」の中の一枚である。1972年の録音。パーソネルは、Joe Farrell (fl, ss), Chick Corea (el-p), Stan Clarke (b), Airto Moreira (ds, per), Flora Purim (v o, per)。
フュージョン・ブームの先駆けとなった記念碑的名盤、と良く言われるが、それは違うだろう。フリー・ジャズによる、従来の「音楽の本質」の放棄の後に必然として現れた、新しいモダン・ジャズの観念に基づいた「音楽の本質」の追求の一つの成果が、このChick Coreaの『Return to Forever』だろう。
それほど、この『Return to Forever』には、音楽の素晴らしさ、音楽を演奏することの喜び、そして、音楽を愛でることの楽しみ、が溢れている。このアルバムの演奏内容は、文句の付けようがない。フュージョン・ブームの先駆けといわれるので、ソフト&メロウなリラクシング系の癒し音楽を思い浮かべる方が多いと思うが、それはとんでもない誤解である。
この『Return to Forever』は、全編に渡って、印象的なフレーズが満載ではあるが、演奏の根幹は「骨太なメインストリーム・ジャズ」である。ハード・バップな要素から、フリー・ジャズな要素まで、1972年の録音時点でのジャズの全ての要素を包含し、ジャズのビートに乗せて、印象的なフレーズとリフをかましまくるという、それはそれは素晴らしい技の応酬であり、目眩く、印象的なフレーズとリフの嵐である。
全編に渡って、Chick Coreaのフェンダー・ローズが美しい。これだけ、ハイ・テクニックに裏打ちされた、様々な響きを伴った、美しいフェンダー・ローズは、なかなか聴けない。フェンダー・ローズを演奏させたら、Chick Coreaの右に出る者はいないだろう。
そのローズの音に絡むStan Clarkeのウッド・ベース。重低音溢れ、ブンブンと唸りを上げる超弩級のベース音。でも、Chick Coreaのフェンダー・ローズに最適に絡んでいるので、それが全く耳障りでは無い。そのバックで、様々なパターン、音色のリズムを供給するAirto Moreiraのドラム&パーカッション。この3者で構成されるリズム・セクションの音は凄まじく美しい。
唯一無二、空前絶後な「フェンダー・ローズ」+「ビート&リズム」の上で、吹き上げられるJoe Farrellのソプラノ・サックスとフルート、そして、 Flora Purimのボーカルは、舞い上がる様な飛翔感を持って、ユートピア的なサウンドの如く、ポジティブに明るく響く。
6年ぶりに、自分の一番お気に入りのアルバムをかけて、その音世界を愛でて、今年の音楽三昧の生活に幸あれ、と願う行事「聴き初め」を復活させた訳だが、『Return to Forever』を聴き終えた後は、心はスッキリ、気持ちはポジティブ。やっと、逆境の嵐を行き過ごして、心安らかな日々がやってくるんだ、という期待感が溢れてきた。今年は良い年でありますように・・・。
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