モンクは隠れた佳作が多い
セロニアス・モンクは、リバーサイド・レーベルの一連のリーダー作が面白い。モンクの全盛期なだけに、跳んだり跳ねたり、どのアルバムをとっても、個性溢れるアルバムが多い。
モンクの名盤と呼ばれるアルバムも、このリバーサイド・レーベルの時代に偏っている。「Brilliant Corners」「Monk's Music」、ライブの「Thelonious in Action: Recorded at the Five Spot Cafe」「Misterioso」、そしてソロの「Thelonious Himself 」「Thelonious Alone in San Francisco」。どれもがリバーサイド時代の名盤である。
しかし、リバーサイド時代のアルバムには、ジャズ初心者向けの入門本や、モンクの代表盤には、ほとんと挙げられることは無いが、これがなかなかの佳作、良い出来のアルバム、聴いて楽しいアルバムが意外と多い。今回、久しぶりに聴いた『At the Blackhawk』(写真左)。このアルバムも、そんなアルバムの一枚。
1960年4月、サンフランシスコのブラックホークでのライブを収録したアルバム。西海岸ライブならではの乾いた音とリラックス雰囲気が実に芳しいライブ盤です。
興味をそそるのは、いつものレギュラー・カルテットのメンバーに、管をさらに2名加えているところ。ちなみに、パーソネルは、Joe Gordon (tp) Harold Land, Charlie Rouse (ts) Thelonious Monk (p) John Ore (b) Billy Higgins (ds) 。トランペットのジョー・ゴードンとテナーのハロルド・ランドがその2人(2管)。
ライナーによれば、西海岸のドラマーの第一人者シェリー・マンとモンクの共演作を作るつもりが中止になり、やむなく、ジョー・ゴードン、ハロルド・ランドの2人を加えてのライブ・レコーディングに切り替えた、ということ。
簡単にいうと、ブッキング・ミスによる偶然の組合せ、偶然の産物である。う〜ん、なんとジャズらしい(笑)。やむない偶然の組合せ、偶然の産物とは言いながら、この内容がなかなか良いから、ジャズって面白い。
ペットのゴードンは、ハイ・テクニックでは無いが、メロディアスで印象に残るフレーズが良い。う〜ん、どう聴いてもハイ・テクニックでは無いけど、ちょっとカクカクカクとスクエアなんだが、滑らかでジャズらしいメロディーのソロ・パフォーマンスが実に良い雰囲気を醸し出している。このペットの存在が、この『At the Blackhawk』の個性を形作っているといっても過言ではない。感覚的にではあるが、実にジャズらしいペットのフレーズである。
ハロルド・ランドのテナーは、西海岸的に乾いた男性的な逞しい音色を振りまきながら、モンクの個性に対しては、我関せず、とばかりにマイペースで吹き上げていく。この独特の、乾いた無頼な感じがランドの持ち味。その無頼な部分を、モンクの相棒、テナーのチャーリー・ラウズがしっかりとサポートし、しっかりとグループサウンズとしてまとめ上げていくことろが、これまた素晴らしい。モンクのライブとしては、モンクのレギュラー・カルテットの当時の実力を確実に理解するに格好な佳作です。
目立たないんですが、リズム・セクションのJohn Ore (b) Billy Higgins (ds)は、モンクの千変万化なリズムとフレーズに翻弄されながらも(ヒギンスなんか部分部分でヘロヘロになってますが・笑)、必死でビートとリズムを供給していて、実に健闘しています。このリズム隊の健闘が、モンクとフロントの3管、ラウズ、ランド、ゴードンにインプロビゼーションの自由を与えています。
ジャケットデザインも何の変哲も無い普通のデザインなんですが、これが意外にも、堅実にリズムを刻むベースとドラムの健闘の上に、モンクのピアノと3管が魅力的なインプロビゼーションを展開していて、単純に、聴いていて楽しいアルバムとなっています。
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