隠れ名盤がざっくざく・・・
さて、ジャズの世界は奥が深い。ふと、そのジャケット・デザインが魅力的で、レコード屋で目にとまったアルバムが、実はなかなかの内容の隠れ名盤だったりする。ジャズの名盤、佳作の類って、何も、ジャズ入門本やアルバム紹介本に挙がったアルバムだけが、全てでは無い。
そんなアルバムの一枚が、Art Farmerの『Isis』(写真左)。パーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Art Farmer (flh), Massimo Urbani (as), Furio Di Castri (b), Roberto Gatto (ds)。1980年12月、ローマでの録音。
ローマでの録音と聴くと、そう言われて改めてパーソネルを見わたすと、そうかそうか、Enrico Pieranunzi (p), Massimo Urbani (as), Furio Di Castri (b), Roberto Gatto (ds)のアルト・サックス+ピアノ・トリオのリズムセクションはイタリア・ジャズの中核メンバー。
このアルバムのジャケット・デザインが実に印象的。童話の挿絵風の、どう考えてもジャズには相応しくない、とても優しいデザイン、とても優しいイラスト。でも、このジャケット・デザインが実に印象に残る。今回、CDを漁っていて、この印象的なジャケット・デザインに出くわして、遙か昔、このアルバムの音を初めて聴いたことを思いだした。
学生時代、このアルバムをレコード屋で手にしたことがある。でも、その時は、なんとなく童話の挿絵風のジャケット・デザインがジャズのイメージ合わなくて、購入を躊躇った。後ろ髪を引かれる思いでレコード屋を離れた。
そして、夕暮れ時、例の大学近くの「秘密の喫茶店」に行くと、なんと、このアルバムがかかった。冒頭「Isis」の出だしのフリューゲル・ホーンとアルト・サックスのハーモニーを聴くだけで、もうそこはハードバップの世界。しかし、音は古くない。切れ味良く、スピード感が溢れている。
ファンキーな雰囲気が全開なんですが、音の響きは洗練されていて、決して、1950年代後半から1960年代前半のファンキー・ジャズ全盛期、ハードバップ全盛期の、その時代の音ではない。1980年のその時点のハードバップ・ジャズの最先端に近い。
「秘密の喫茶店」の若き妙齢のママが言った。「良いでしょう、この雰囲気。イタリアン・ジャズらしいですよ」。Enrico Pieranunzi の名前だけは、ジャズ雑誌で知っていた。でも、音は聴いたことが無い。「綺麗なピアノの音ですね」と言うだけが精一杯だった。今から振り返ると、この時が、ヨーロピアン・ジャズに初めて出会った時だった。なんとなく童話の挿絵風のジャケット・デザインが、やけに印象的だった。
確かに、米国のハードバップ・ジャズの雰囲気とは違う。米国のハードバップ・ジャズは黒い。米国のハードバップ・ジャズは黒いファンキー。このアルバムは違う。洗練された、クリスタルなファンキーっぽさが、実にヨーロピアン・ジャズらしい。
エンリコがアート・ファーマーと組んだ、エンリコ初期の傑作アルバムといって良いだろう。3曲にイタリア最高のアルト・サックス奏者、マッシモ・ウルバーニが参加していることも価値を高めている。僕もこのアルバムで初めて、マッシモ・ウルバーニの名前とその演奏を体験した。しっかりとアルト・サックスを鳴らし切り、エモーショナル溢れる演奏は注目に値する。
アート・ファーマーのフリューゲル・ホーンも、暖かな音色をベースにエモーショナルなインプロビゼーションを展開していて見事である。どの演奏もポジティブでアクティブ。柔らかな、なんとなく童話の挿絵風のジャケット・デザインからは想像出来ない、1980年当時、最先端のハードバップなジャズ演奏がこのアルバムにギッシリと詰まっている。
良いアルバムです。タイトル『Isis』 とは,ライナーによるとエジプトに伝わる「月の神」という意味だそうです。確かに、このアルバム、日中聴くよりは、日が沈んだ後、夜のしじまの中で聴く方が、しっくりくる落ち着きと端正さが素敵な「隠れ名盤」だと思います。
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