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2009年12月 3日 (木曜日)

ビル・エヴァンスの個性全開

ビル・エヴァンスは、ジャズ・ピアノ界一のスタイリストである。クラシックに影響を受けた印象主義的な和音の重ね方と独特な響き、ロマンティックでメロディアスな旋律、抑揚と陰影、強弱と緩急を柔軟に織り交ぜた、メリハリのあるリリカルなピアノ・タッチ。音と音との「間」の使い方が本当に美しい。

一聴したら、必ずそれと判るスタイルである。それまでのビ・バップのピアノとは全く異なるというか、完全に一線を画する、ハードバップ以降の主流となるジャズ・ピアノのスタイルの源である。ビ・パップのテクニック一辺倒のジャズ・ピアノを、クラシック・ピアノと同等のアーティステックな世界まで昇華させたのは、ビル・エヴァンスである。

そんなスタイル、個性の確立が確認できるアルバムが、ビル・エヴァンス2枚目のリーダー・アルバム、Bill Evans『Everybody Digs Bill Evans』(写真左)。パーソネルは、Bill Evans (p), Sam Jones (b), Philly Joe Jones (ds)。1958年12月の録音である。

2曲目の「Young and Foolish」、3曲目の「Lucky to Be Me」、7曲目の「What Is There to Say?」などのバラード演奏は、それまでのビ・バップのピアノ・トリオでは絶対に聴けなかった演奏である。クラシック・ピアノと同等のアーティステックな世界がここにある。本当に素晴らしいピアノの響きである。本当に素晴らしいピアノの旋律である。
 

Everybody_digs_2

 
そのリリシズム溢れる、最高にアーティスティックな個性は、ソロ・ピアノのフォーマットで最大限に発揮される。3曲目「Lucky To Be Me」、5曲目「Epilogue」、7曲目「Peace Piece」は絶品である。このソロ・ピアノで、ビル・エヴァンスの個性は最大限に発揮される。それは、まだ、当時のジャズ界に、ビル・エヴァンスの個性の邪魔にならず、その個性を更に引き伸ばすような、ビート&リズムの供給を実現できるベーシストとドラマーが存在しなかったことに他ならない。

それでも、このアルバムでの、Sam Jones (b), Philly Joe Jones (ds)は健闘している。ビ・バップの影が残る演奏については、エヴァンスの強いタッチにピッタリのフィリー・ジョーのドラミングである。サム・ジョーンズのベースも堅実で基本リズムを決して崩さない。当時では、ビル・エヴァンスが一番やり易かったベース&ドラムではないだろうか。1曲目「Minority」、4曲目「Night and Day」など、実に聴いていて楽しい。大胆かつ繊細なエヴァンスのピアノは聴き応え十分。

音と音との「間」の使い方、モード的な旋律の展開の仕方、印象主義的な和音の重ね方。どれもが現代のジャズ・ピアノの基本になっている。ビル・エヴァンスは、ジャズ・ピアノの歴史の中で、最大のスタイリストである。
 
 
 
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コメント

はじめまして、残念ながら、このアルバムは
聴いていませんが、毎日「ワルツフォーデビー」
は店でかけています。よく、ビル・エバンスを女子供のジャズと批判する人もいますが、48年前の演奏には思えない、ピカピカ光っていて、
美しく、緊張と弛緩を繰り返す、ピアノは、
ある一面ではちょと、癖というか、ロマティシズムを出し過ぎかと思ったりします(ショパンに通じる部分)だからハンク・ジョーンズの様に、
淡々とストイックに弾いたほうが、知的で、
男らしいと思ったりもするのですが、でも、
やはり、私はビル・エバンスが好きです。
彼は練習を相当したとインタビューで言って
いました。マッコイ・タイナーは練習は嫌い
だと言っていたように記憶しています。

アトリエ・ビーミッシ店長さん、はじめまして。松和のマスターです。

そうですね。ビル・エバンスは女子供のジャズでは絶対に無いですね。
ビルのピアノは実にハードなものです。ロマンティックな静的な音を
出す時も、ビルはしっかりとピアノの鍵盤を深く押さえています。
音の芯が太いとでも言うのでしょうか。優しさの影にハードボイルド
な音が響いているところが、ビル・エバンスの魅力だと思います。
 
 

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