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2009年12月17日 (木曜日)

エバンスの寛いだハードタッチ

昨日は、叙情的でリリカルなエバンスの『Moon Beams』をご紹介したが、エバンスの本質は、タイトでハードなタッチと計算されたアレンジ、そして、そのアレンジに応えるテクニカルな面が極めて優秀な、唯一無二なピアニストである、というところにある。

そして、エバンスの相当数あるアルバムをじっくりと聴き進めると、気合いを入れた録音セッションでの、エバンスのタイトでハードなタッチと、気心知れた寛いだセッションでのタイトでハードなタッチとは、ちょっとニュアンスが違うのだ。

寛いだセッションでのエバンスは、実に魅力的なハードタッチで迫ってくる。ちょっとジョークを交えた、実に優しいハードタッチで迫って来るのだ。そんなアルバムの中で、僕が愛して止まないアルバムが『On Green Dolphin Street』(写真左)。1959年1月の録音。パーソネルは、Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。

このアルバムに収録されたセッションは、Chet Bakerの『Chet』の録音セッションに参加した、Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)が、プロデューサーのオリン・キープニュースの誘いで録音したもの。もともと、この3人、マイルスの下で演奏していたので、気心しれており、しかも、Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)は、エバンスのお気に入りのベーシストとドラマー。

全編に渡って、絵に描いたような「ハードバップ」なピアノ・トリオである。気心知れた寛いだセッションでの、エバンスの、ちょっとジョークを交えた、実に優しいハードタッチが全編に渡って体験できる。まあ、バックが、Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)である。叙情的でリリカルな面を全面に押し出すには、このベーシストとドラマーは、あまりにハードバッパーである(笑)。
 
 
Bill_evans_on_green_d
 
 
冒頭の「You and the Night and the Music」が素晴らしい。エバンスのアレンジ能力の素晴らしさ、そして、優しい、寛いだハードタッチ。そして、2曲目の「My Heart Stood Still」では、アドリブ部で、クリスマスソングの旋律が顔を覗かせる。エバンスの笑顔と、それに応える、チェンバースとフィリー・ジョーの笑顔が浮かぶようだ。

そして、絶品は3曲目。表題曲の「On Green Dolphin Street」。この演奏でのエバンスは絶品である。寛いだハードタッチ、緩急自在、硬軟自在のインプロビゼーション。バリバリ弾きまくるエバンス。バリバリ弾きまくってはいるが、決して耳につかない。ハードタッチの音のエッジが優しく丸いのだ。

チェンバースのベースとフィリー・ジョーのドラムも、しっかりとソロを取るスペースを確保しており、そのソロが、これまた絶品なのだ。チェンバースの太いウォーキング・ベース、そして、フィリー・ジョーの変幻自在でハードでタイトなドラミング。実に魅力的に、そして、エバンスをしっかりとサポートし、引き立たせている。

良いアルバムです。Chet Bakerの『Chet』の録音セッション後に、トリオだけで一枚分を余計に録音したものの、発売に踏ん切れずに20年ほど倉庫に寝かされていたなんて、信じられないですね。でも、この実に寛いだハードタッチで、気心しれた仲間と、あまり深く考えずにインプロビゼーションを展開したのが、完全主義者のエバンスとしては気に入らなかったのかもな、とも思います。

それほど、このアルバムでのエバンスは、寛いで演奏しているのが実に良く判る。実に楽しそう。ジャズが好きで、ピアノが好きで、演奏が好きで、そんなエバンスの普段着のようなピアノ・タッチが実に魅力的です。ジャケット写真も実に雰囲気があって、聴く方も適度にリラックスしてきける、ジャズ初心者の方々にも大推薦の一枚です。

今日も朝から、ガッチリと「寒い」。いきなり真冬が来た感じ。それでも、日中は日差しが戻ってきて、会社の窓から見る分には、豊かな日差しが戻ってきた感じ。でも、外出から戻って来た連中は、口々に「寒い寒い」。う〜ん、師走を実感しますね。
 
朝日浴び 眩しきばかり 霜の朝
 
 
 
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