beatles『Abbey Road』は音抜群
朝からどんよりと鉛色の空。すっかり冬めいた気候にちょっと顔をしかめる。昼からは冷たい雨。時雨の様にパラパラと降っては止んで降って・・・。こんな時雨の様な天気を見ると、決まって「京都」を思い出す。
晩秋から冬にかけて、京都盆地の「天候の名物」と言えば「時雨」。さあっと冷たい風が吹いて、さ〜っという感じで降って、暫くして止む通り雨。時雨と言えば、決まって京都を思い出す。京都の時雨の思い出は沢山ある。京都は大好きな土地。学生時代、大切な思い出の地のひとつである。懐かしい。
時雨来て また清水の 遠くなり
さて、今日は日曜日、日曜日恒例のBeatlesのリマスターCD特集、今日は『Abbey Road』(写真左)である。正式なスタジオ録音盤としては、先週ご紹介した『The Beatles(White Album)』が、モノラル・ミックスとステレオ・ミックスが併存発売された、つまりは、モノラル・ミックスがリリースされた、ビートルズ最後のアルバムとなった(サウンドトラックとしては『Yellow Submarine』があるが事情が複雑なので、またの機会に語りたい)。
そして、Beatlesの正式なスタジオ録音盤としては、最後に『Abbey Road』が残ることになるが、この『Abbey Road』はモノラル・ミックスが存在しない。この最後のスタジオ録音盤にして、Beatlesは正式にステレオ・ミックスを主体としたことになる。つまりは、Beatlesの聴き手(ファン)は、単発の小さなスピーカーを搭載したラジオしか持たない人達から、少なくとも何らかのステレオ・セットを持った人達へとシフトした、ということだろう。
Beatlesはライブ・バンドである。その最大の特徴である「ライブ感」を、スタジオ録音盤にも出来る限り再現すべく、録音方式はスタジオ・ライブに近いものだった。リハーサルも無い。今で言うヘッド・アレンジ方式とジャム・セッション方式で演奏曲を煮詰めていったという感じだろう。そのスタジオ録音盤に詰め込まれた「ライブ感」は、モノラル・ミックスで最大限に再現された。だから、巷では「Beatlesはモノラル・ミックスでこそ、そのバンドの真価が発揮される」と言われるのだろう。
マルチトラックの録音装置が導入され、オーバーダビングでのスタジオ・ワークが採用される時代になる。しかし、Beatlesはライブ・バンドである。このスタジオ・ワーク方式が、Beatlesに合うはずがない。しかし、悪いことに、このオーバーダビング方式に、ポールが思い切り「はまってしまう」。そして、『Revolver』から、大々的に採用されたオーバーダビング方式は、Beatlesに破綻をもたらした。
とにかく、ポールがこの方式に「囚われの状態」になってしまったのが大きな問題だった。気に入らない演奏パートは何度でも録音し直せる、気に入らない演奏パートは、別の誰かの演奏と差し替えることが出来る。サウンド・エフェクトを後から被せるのも比較的容易に出来る。後から必要となった楽器の音も容易に追加して、その演奏に被せることが出来る。でも、これって、ライブ・バンドの基本精神に反するものなんですよね。
そもそもが、Beatlesは使用楽器数が少ない。そして、サウンド・エフェクトも必要最低限にて、効果的なものにしか採用していない。Beatlesは、そのバンドの音の「シンプルさ」が最大の特徴のひとつだと僕は睨んでいるので、やはり、本来のオーバーダビング方式は基本的に必要ないだろう。
そして、ライブ・バンドにはサポートミュージシャンの参加は必要が無い。自分たちで、自分たちの楽器の分担で、サポートミュージシャンの参加無しに演奏することが原則である。そのバンドの中での「メンバー間の楽器の分担」を、オーバーダビング方式を前提として犯し始めたら、バンドの連帯は一気に無くなる。
そんなこんなで、解散寸前のアルバムが、この『Abbey Road』である。さすがに、このアルバムのA面を占める楽曲+B面の1曲目「Here Comes the Sun」は、往年のBeatlesの演奏と言える。 どの曲も素晴らしい演奏で、そのライブ感が堪らない。このまま、ステージで演奏可能な曲ばかりだ。しかし、「Maxwell's Silver Hammer」だけがちょっと異質で困った存在なのだが、う〜ん、ポール、何故ここにこの曲を入れた。B面に持って行ってくれれば、気持ちがスッとしたのに(笑)。
B面の2曲目「Because」以降、「The End」までの一連のメドレーの流れと、最後に唐突に存在する「Her Majesty」は、ポールのソロの世界だろう。ポールをリーダーに、ビートルズの他のメンバーがバックバンドとして参加した感じかな。巷で言われるように、確かに良く出来たメドレーだ。でも、1曲1曲が独立して成立した曲ではない。歌われる内容にもテーマ性は無い。この辺が、このB面メドレーの辛いところ。この脈略のないメドレー形式は『Sgt. Pepper's』に似ているが、あのアルバムは1曲1曲が独立した曲として成立していた。
さて、今回、リマスターされたステレオ・ミックスの音はどうなのか。もともと、この『Abbey Road』は、LP時代から音が良く、マスターテープの録音の良さが偲ばれていたのですが、1986年の初CD化の時も、かなり素晴らしい音質で、当時「これがCDの音か」と驚いたのを覚えています。今のステレオ装置で聴いても、1986年リマスターCDは良い音で鳴ります。今回のリマスターに先立ち、この『Abbey Road』については、リマスタリングの効果はほとんど無いのでは、と思ったくらいです。
ところがどっこいぎっちょんちょん(笑)。今回のステレオ・ミックスは更に音が良くなっています。「劇的に」とは言い過ぎかと思いますが、1986年リマスターよりも音の分離が、更に良くなっています。ジョージの名曲「Something」での、ジョージが出来る限りシンプルにしてくれと懇願した、ポールの異常な程の驚愕ベースラインが、くっきりと浮き出てくるところなんか、鳥肌モノです。特にA面にこの効果が顕著ですね。リンゴのドラミングも「張りと艶」が増して、音量を上げると目の前でリンゴが叩いている様です。
加えて、これは今回のリマスター全般に言えることなんですが、音のエッジが円滑になって、音が非常に滑らかに感じます。そして、ノイズ感が非常に抑制されている。といって、必要なノイズはしっかり残っていて、不要なノイズだけを選択して抑えたって感じです。ですから、とても聴き易い、というか、耳に優しいというか、何回聴いても疲れないというか、飽きないというか、本当に良い耳当たりの音になっています。確かに、アナログ時代の、LP時代の音と同じ感じになってきています。
『Abbey Road』の今回のリマスターCDは、絶対に「買い」です。『Abbey Road』は、今回のリマスターCDが有れば良い。そんな感じの音に仕上げられています。デジパック仕様の様なジャケットが、ちょっと「愛」を感じない、味気ないものですが、仕方がありませんね(笑)。う〜ん、ステレオ・ミックスしか存在しない『Abbey Road』と『Let It Be』だけ、日本製紙ジャケで追加リリースして欲しいなあ〜。
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バンドの本質はライブかもしれないが、少年時代にメンバーは絵を描くのが好きだったアートな一面も持っていた。まるで絵を描くように音を加工するのは自然な流れだよ。それもビートルズの本質には違いない。
投稿: | 2014年4月16日 (水曜日) 09時11分