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2009年10月17日 (土曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・1

さて、このところ、当ブログのジャズ・アルバムの紹介は、ちょっと、マニアックな方向に偏りつつある。本来、バーチャル音楽喫茶『松和』というところは、ジャズ者初心者の為のジャズ紹介サイトである。今日は、本来の主旨に立ち返り、バーチャル音楽喫茶『松和』のマスターが愛聴するピアノ・トリオの代表的名盤について語りたいと思う。

「ジャズのピアノ・トリオを聴きたいのですが、一枚だけ挙げるとしたら、どのアルバムですか」というお問い合わせを受ける時がある。ジャズのピアノ・トリオも奥が深く、時代の違い、スタイルの違い、パーソネルの違いがあるので、たった「一枚」だけで、ジャズのピアノ・トリオを理解するのは、ちょっと「無理ですよ、それは」と言わざるを得ないんですね。せめてジャズ者初心者として最初、代表的名盤を「10枚」は聴いて欲しいのですが、改めて、キッパリと「一枚だけ」と言われたら、私はこのアルバムを薦めることにしています。

Bill Evans(ビル・エヴァンス)の『Explorations(エクスプロレーション)』(写真左)。おなじみのパーソネルは、Bill Evans (p), Scott La Faro (b), Paul Motian (ds)。1961年2月の録音になります。

「Explorations」とは日本語訳では「探求」。ジャズ・ピアノの歴史上初めて、それぞれのメンバー(楽器)が独立しつつ、有機的に連携しながら、自由度の高いインプロビゼーションとハーモニーを繰り広げた、ビル・エヴァンスの「伝説のトリオ」。その「伝説のトリオ」の演奏を更に深く掘り下げた内容になっています。とにかく、収録された全演奏が素晴らしい。

冒頭の「Israel」1曲聴くだけで、ジャズ・ピアノ・トリオの持つポテンシャルを強烈に感じることが出来ます。ここまで、アーティスティックな表現が可能なことに感じ入ります。端正でスインギー、繊細かつ大胆なアプローチ、有機的に変化する楽器の連携、硬軟自在、緩急自在。譜面通りに演奏し、その限定された環境の中で、アーティスティックな面をいかに引き出せるかという「クラシック音楽」の対極にある「ジャズ音楽」とはいかなるものか、ということがこの「Israel」1曲で体感することが出来ます。
 

Explorations

 
2曲目のバラード曲「Haunted Heart」の前奏からのエヴァンスのソロは、もう惚れ惚れとします。ピアノという楽器を本当に良く理解したピアニストだと思います。どうすれば、その局面で、ピアノの音が一番魅力的に鳴り響くか、を熟知しているようです。そして、トリオ演奏に入ると、伝説のベーシスト、スコット・ラファロの自由度高く、センスの良い、重低音溢れる、繊細かつ大胆なベースラインが楽しめます。

3曲目の「Beautiful Love (take 2)」は、冒頭からトリオ演奏。そのリズミカルな演奏にハッとします。なんて素晴らしいリズム感。心がウキウキと弾むようです。冒頭から、ラファロのベース、モチアンのドラムは、実にスリリングな絡みを見せつけながら「ビート&リズム」を供給します。その有機的で、硬軟自在、緩急自在、3D感覚の「ビート&リズム」をバックにして、ピアノで歌うような旋律を弾き綴っていくエヴァンスは、実に心地よさそうで、素晴らしく魅力的です。

この『Explorations』は、冒頭の3曲の流れで、ジャズ・ピアノ・トリオの特質と魅力を存分に感じることが出来ます。そして、4曲目以下に控える名曲の数々。「Elsa」「Nardis」「How Deep Is the Ocean」「I Wish I Knew」「Sweet and Lovely」「The Boy next Door」と、それはそれは素晴らしい演奏が満載です。トリオのメンバーが対等の関係で、有機的にインタープレイを繰り広げる、その「目眩くピアノ・トリオの音世界」は、一度耳を傾ければ、そこはもう「至福の世界」です。

ビル・エヴァンスの名盤の中でも、私の一番の愛聴盤が、この『Explorations』です。最近、更にその『Explorations』の魅力を深く感じるようになりました。本当にこのアルバムは奥が深い。何回聴いても、その都度違った側面、違った音に気付き、何回聴いても、このアルバムは、常に新鮮な「音」があります。1枚で何百通りにも、エヴァンス・トリオの演奏を愛でることが出来る。

「ジャズのピアノ・トリオを聴きたいのですが、一枚だけ挙げるとしたら、どのアルバムですか」という、ちょっと無理難題的なお問い合わせには、このビル・エヴァンスの『Explorations』と答えるようになりました。
 
 
 
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コメント

こんばんは
ビル・エバンスのいわゆる 四部作ですか その中で一番 素直にすっと聞けたのはエクスプロレーションでした

Israelの入りかたは枯葉とはまた違ったインパクトがありますね

アルバムではエクスプロレーションですが エバンスの曲で一番好きな曲はなんて言ってもマイ・フーリッシュ・ハート!

クリスマスにピッタリの曲だと思います

こんばんわ、ケンさん。松和のマスターです。

そうですね。ビル・エバンス4部作で、一番、聴きやすく、入り易い
アルバムは「エスクプロレーション」だと思います。同感ですね。
でも、どうしても題名の魅力に惹かれて「ワルツ・フォー・デビー」
を選ぶことが多いんですが、このアルバム、意外と硬派なライブ・
アルバムだと思っていて、ジャズ者初心者には、ちょっと重荷かも、
と今でも思っています。
 

こんにちは
そう!そうなんですよ

ワルツ・フォー・デビーは 結構 なかなか馴染むまで時間がかかりますよね
それは ずっと思ってました

雑誌なんかに良く取り上げられる名盤は結構難しいです

ところで以前 Curtis Counce・Vol.1: Landslide 買ったのですが その中のTime After Time 最高にいいです

ケンさん、こんばんわ。松和のマスターです。
 
『Curtis Counce・Vol.1: Landslide』ですか。これは持って
いませんし、聴いたこともありません。今度、手に入れて聴いて
みますね。ジャケットをネットで見てみましたが、なかなか渋い
ですね。「ジャケ買い」対象のアルバムでもあるみたいで実に
魅力的なアルバムですね〜。

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